▼授業は子どもと勝負をする場と心得て久しい。きっかけは、1年生の授業。その頃、挿絵を生かして「うらしまたろう」が教材にあった。黒板に題名を書き始めると「知っている」のコール。授業にならなかった。子どもに負けたことを自覚。出直して仕切り直し。

▼昔話を大量に紹介した。「桃太郎」「金太郎」「三年寝太郎」「力太郎」など。いわゆる太郎の出てくる昔話で攪乱という作戦。これが成功した。「次は何太郎ですか」と質問。「今度は、亀が出てくる太郎のお話」といってももう「知ってる」ではなく、教科書を自分で読もうという態勢を整えた。自力で読もうという気持ちになったのである。土俵際まで追い詰められていたのが、やっと土俵中央に戻したという気持ちだった。

▼「大きなかぶ」の授業。登場人物を順番に呼ぶ場面。お面を被って劇をしている子は楽しそうだった。ところが、その場面を退屈そうに見ていた子が、「先生、おじいさん、あかんわ」と告げた。その理由は「大きいかぶでしょう。はじめからおじいさんが、大きいのを知っているのだったら、初めからみんなで引っ張ったらいいのに」という意味のことを告げた。見方を変えればこの子の話は筋が通っている。

▼子どもは「これ知ってる」「おじいさん、あかんわ」で勝負をかけてくる。(吉永幸司)