本棚  白川静 漢字の世界観
松岡正剛 著 BK1
平凡社新書 2008.11 780円
白川静

 白川静については、『字統』『字訓』『字通』という字書を作った漢字学者ということしか知らなかったが、本書を読むと他の著作を読んでみたくなる。書名からは伝記に思えるが、むしろ白川静が生涯にわたって研究してきたことが概観できるような内容の書である。

 甲骨文や金文の研究を通して漢字の正しい形を知り、本来的な意味を明らかにすると、漢字は当時の思惟のしかたに従って、一定の原理によって構成されていることがわかる。

 しかし、白川静は「文字の説明をする」のが目的なのではなく、「文字が持つ背景、文字が成立した頃の民族の基礎的な体験」つまり「精神史の起点」をそこに求め、「東洋の精神とは何か」を究めようとしたというのである。中国の古代歌謡を集めた『詩経』と『万葉集』とを同時に読むことによって双方に新しい解釈をくだしている。

 また、漢字を借り物のように思っているが、音訓の読み方によってすでに国字(日本で作られた漢字の意ではなく、日本語の文字の意)であると言う。「当用漢字」で読み方を制限したり略字を作ったりして、漢字のすばらしさをそこねたと指摘している。漢字、使いこなすのはたいへんだが、奥深い知の宝庫である。(常諾真教)