本棚  日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で
水村美苗 著 BK1
筑摩書房 2008.10 1800円
日本語が亡びるとき

 1、2章は著者の体験が中心に語られ、3〜5章で〈国語〉の成立について論じられている。

 著者は〈普遍語〉〈現地語〉〈国語〉という3つの概念を使う。中世ヨーロッパの知識人は、英語・ドイツ語・フランス語などの〈現地語〉を話したが、〈普遍語〉であるラテン語で書くことによって多くの人に読まれた。学問をする言葉は〈普遍語〉だった。印刷術の発明後、ラテン語から現地語に翻訳されたものが広く流布するようになり、また、近代国家の誕生によって〈現地語〉が〈国語〉になり、〈国語〉で学問ができるようになった。日本では長く〈普遍語〉は漢文であった。明治以降、欧米語から盛んに翻訳されて、日本語が学問や文学のできる〈国語〉となった。

 今でも既に科学論文はほとんど英語で書かれていて、日本語で書いても外国人には読んでもらえない。インターネットの普及により、ますます英語での発信が増えていく。日常語としての日本語がなくなるわけではないが、学問をする言葉は英語になっていく。文学の言語もそうなっていくのではないかと小説家である著者は危惧する。

 最後の7章では、日本人の一部をバイリンガルになるのをめざす教育が必要だと説く。

 1章 アイオワの青い空の下で〈自分達の言葉〉で書く人々
 2章 パリでの話
 3章 地球のあちこちで〈外の言葉〉で書いていた人々
 4章 日本語という〈国語〉の誕生
 5章 日本近代文学の奇跡
 6章 インターネット時代の英語と〈国語〉
 7章 英語教育と日本語教育
(常諾真教)