詰まっても最後まで読んだ音読発表会(2)
森  邦 博

 音読発表会の教室に入る。
 グループ練習の時に見かけた顔に「頑張れよ、アドバイスしたことできるかな?」という思いで顔を見ると、自信ありげに視線を返してくれた。やる気を感じた。
 教室の後ろにはビデオがセットしてある。黒板には、音読を聞いての評価の観点が示されている。
 一人一人の子どもは、グループごとの発表を聞いての評価と感想を書き込む用紙を持っている。先生のオリエンテーションでは「友達の良いところを見つけて書きましょう」と強調されていた。

 グループ別の音読発表が始まる。一人で読んだり、声を合わせて読んだり、間をとったりと、グループなりの工夫を音読に表している。
 発表が終わると、どの子もが、さっと感想を書いたり評価の欄に記入したりしている。
 発表した子も、「自分のこと自分ではなかなか分からないので、頑張ったことを書いておくよ」と発言。また「いつの間にそんな工夫を見つけたの」「すごいなあ、前とは見違えるようや」との先生の言葉が一層子どものやる気を引き出し、どの子も活動への意欲を持って参加している雰囲気が伝わってきて、気持ちよい。

 そんな中、そのハプニングが起こった。
 Tさんが詰まって読めない。この子は音読を苦手としているらしい。なのにみんなの前で詰まった。どうするだろうと心配した。
 ところが、学級の子どもも静かにTさんの音読が続くのを待っている。グループの他のメンバーはどうかなと見ると、心配そうな顔でTさんを見ているが、誰も代わりに読んでしまうことはなく、待っているのである。
 そして息詰まるような緊張感の中、しばらくの沈黙の後、Tさんの音読の声が続いた。
 誰もがTさんが続けて読むと信じ、その時を静かに待ちTさんはそれに応えたのだった。
 近くの子どもの評価用紙を見ると、「Tさん最後まで読んだ」との記述が目に入ってきた。

 同じグループのメンバーは、彼がつまずくかも知れないことは十分予想していただろう。しかし、出番はしっかりと作り、詰まっても待った。そのグループの支えにTさんも答えた。
 このことはグループの練習中にはよく起こったことなのだろう、練習を通じTさんなら待てばやり遂げることを知って、代わりに誰かが読んでしまうのでなく、Tさんが読むのを待った。厳しさと温かさに私は感動してしまった。
 学び合う場で子どもは伸びると改めて思った場面であった。
(大津市立田上小)