巻頭言
心に灯をつける
飯 田 祐 次

 私は大学の教員養成課程卒業後、他の世界、都会への憧れもあって、神戸市内にある大蔵省の出先機関で働いていた。月日が経つにつれ、職場にも慣れ、なんとなく過ごしていたような気がする。
 そんな時、阪神淡路大震災に見舞われた。教育実習の時の教え子が、
「先生、大丈夫でしたか。」
と電話をくれた。この電話が私の人生を大きく変えた。
 就職後、取り締りの仕事よりも、人を育てる仕事の方が自分に向いているのではと感じ始めていたからだ。そして、地元、島根県の教員採用試験を受け、教師として教壇に立つことができた。

 教師の仕事は、自分の努力でできることが、たくさんある。特に日々の授業は、まさしくこれにあたる。また、子どもたちから、先輩方から、多くのことを学ぶことができる。とてもやりがいのある仕事だ。
 以前の仕事も、決してマイナスではない。職場でのチームワークや接遇、仕事の進め方はもちろんのこと、卒業後すぐ教師になったのではできない貴重な経験をさせてもらった。時々、子どもたちに話をしている。

 今年が教職十年目。教育界が大きく動いている。教員の免許更新制。新学習指導要領、授業時数・学習内容の増加、外国語活動の導入などである。
 目の前の事務処理に追われ、子どもたちと一緒に遊んだり、話をしたり、教材研究をしたりする時間が減ったのではないか。経験に応じて大きな分掌も任されるようになったのもあるかもしれない。
 朝は子どもたちを教室で迎える。延長授業はしない。教室にできるだけ花を生ける。廊下のゴミを拾う。など心がけていることはたくさんある。しかし、一番は、子どもたちとの1時間、1時間の授業の充実である。だが、これがなかなか思うようにはいかない。

 ある講演でこんな話を聞いた。
「普通の教師」は、よくしゃべる。「よい教師」は、分かりやすくしゃべる。「もっとよい教師」は、やってみせる。「最高の教師」は、子どもの心に灯をつける。
なるほどである。

 教育実習の時の教え子の言葉が私の心に灯をつけた。子どもの心に灯をつけることのできる教師になるのが私の目標である。そのためにも1時間の授業を大切にしていきたい。
(大田市立久手小学校)