▼福井県丸岡町が始めた「一筆啓上賞」への投稿が百万通を超えたと小さく記事は伝えていた。映画や本になったので印象に残っている。

▼「若い日あなたに死ねと言った、あの日の私を殺したい」は32歳の男性。「お母さん、宅急便の野菜が包まれていた新聞、しわを拡げて読んでいるよ」などを紹介していた。いずれも母について。

▼「私のお母さん」という題で小5の少女は次の作文を書いてきた。少女がピアノを習いたいと言った時、母は少女を理解して指導をしてくれる先生を捜してきた。少女はコンクールの前に母に言われた。「きびいしことをいうけど、あなたは人より努力しないと足りない指の分はカバーできない。人並みでは誰もあなたの手のことを考えて甘くは見てくれないんだから」。少女の手は絞やく※輪症候群のために両手の指が十本ではない。指に長短がありピアノを弾くときに使えるのは八本だという。「私は、今ピアノの練習が嫌なときには母のあの言葉を思い出します」とけなげに自分を励ます。母に答えるように。

▼母の言葉は生き方を支える。子供の頃、母から中江藤樹が雪の中を帰ってきた時、追い返したことを繰り返し聞いたことがある。厳しく見える母の言葉はきっと少女のこれからを支えるであろうと思った。心に残る作文との出会いであった。 ※絞やく(糸偏に厄)輪症候群 (吉永幸司)