本棚  街場の教育論
内田 樹 著 BK1
ミシマ社 2008.11 1600円
街場の教育論

 2007年、安倍内閣の下で、教育基本法の改訂や教育三法の制定など急激な「教育改革」が行われた年、大学院での講義録を編集した書である。「政治家や文科省やメディアは、お願いだから教育のことは現場に任せて、放っておいてほしい」というのが本書のほとんど唯一の実践的提言であると著者はまえがきで述べている。

 第1講「教育論の落とし穴」の冒頭で、為政者が教育問題を政治課題に掲げるのは、「教育に関しては、どのような政策を採用しても咎められる可能性がないから」だという。教育は結果が出るまでに長い年月がかかる。
 教育制度を改革するというのは「故障している自動車に乗ったまま、故障を修理する」ようなものだという。教育を一時停止することはできない。「教育を改革する」ということは、学校への信頼と、教師たちの知的・情緒的資質への信頼を維持しつつ、それと並行して「学校制度の信頼するに足らざる点、教師たちの知的・情緒的な問題点」を吟味するという難しい仕事である。そのことをわかっていないから教育改革の提言は現実性がない。言われてみれば当たり前のことだが、そのような改革論を聞くことはない。

 いじめ問題、キャリア教育、国語教育などどの面においても新鮮な視点が与えられる。(常諾真教)