第20回「新しい国語の授業」研究会
「西遊記」の人気の秘密は?
岡 嶋 大 輔

 第20回「新しい国語の授業」研究会に参加した。
 その中の記念講演で、児童文学作家であり、亜細亜大学の教授でいらっしゃる斉藤洋先生にお話をいただいた。
 斉藤先生の作品として「ルドルフとイッパイアッテナ」、08年度版光村図書4年に掲載の「ガオー」、「西遊記」等を知る人も多いであろう。
 斉藤先生の作品「西遊記」は、呉承恩の「西遊記」をもとに新しい視点で書き直したものである。
 講演の中では、その「西遊記」の執筆にかかわる興味深い話もたくさん伺うことができた。
 「西遊記」は、漫画やドラマ、映画にもなり、日本でも広く知られている伝奇小説である。三蔵法師が、孫悟空、猪八戒、沙悟浄を従え、様々な苦難を乗り越えて天竺へ経を取りに行くというのが皆の知るところの粗筋であろう。

 「西遊記」の原典を研究された斉藤先生は、講演の中で次のようなことを参会者に問われた。
「西遊記を描いた作者に、何か意図があったのではないか。」
「皆は、本当の西遊記の結末を知っているだろうか。」
「何故、孫悟空は三蔵法師についていったのか。」
 それらのことについて、おもしろくお話を聞かせていただいた。
 ある一つの作品について、「作者がその作品に込めた思い」「読めているつもりで読めていないこと」「言葉に表れている事柄の奥に潜む内容」に思いを馳せることは、こんなにも楽しいことなのだと教えていただいた。

 また、もう一つ問われたことがある。
「西遊記の人気の秘密は何か」ということであった。
 その理由の一つに、「あからさまな教訓がないこと」を話された。 
 「正直」「友情」といった「教訓を教えようという匂い」がしたら子どもは離れていく。子どもが物語を読んで楽しいと感じているのは、その登場人物と同化し、冒険し、困難を乗り越え、人と出会い、愛を感じる等、ハラハラドキドキ、ジーンとすることなのだと気付かされた。
 なるほど、子どもに人気のある物語からは「教訓を教えようという匂い」はしてこない。大人は、「落ちはどこ」「言いたいことは何」とすぐに頭で考えてしまう。子どもにとっては、感性を揺さぶる作品に出合い、その作品世界にどっぷりつかるような読書生活が大切なのだと考えさせられた。
(滋賀大学教育学部附属小)