巻頭言
言 葉 の 力
山 田 利 恵 子

 「子どもの生活を見ていると、この子に言葉の力があったらもっと豊かに生活できただろうにと思えることがあります。」
 4年前にお聞きした吉永先生のこの言葉は、それからの私の学級づくり、授業づくりの根っことなった。

 朝の健康観察で子どもの言葉に少し気をつけるようにした。「目の横が痛いです」と言う子どもがいた。「どのあたりですか」と尋ねると、こめかみを指す。確かに目の横には違いないが、「目の横」という言葉から「こめかみ」は浮かんでこない。「そこはこめかみと言います」と教えると、教室に驚きの声があがる。初めて聞く言葉のようだった。それから「額」や「くるぶし」など体の部分を表す言葉を確認した。数日後、「くるぶしが痛いです」と言う子どもがいた。また、ひざに切り傷がある子どもにけがをした状況を聞いたことがあった。すると、何か言いかけて「わかりません」と答えた。表現が苦手な子であった。ゆっくり話を聞いていくと「昨日、友達の家でテレビを見ていておもしろかったので転がって笑ったら、台の角にあたって切れました」と説明することができた。

 授業での子どもの言葉にも気をつけるようにした。あきらかに聞こえない発言なのにそれに対して何も言わない子ども。よくわからない説明なのに聞き返さない子ども。自分の考えを伝えようとして一旦つまってしまうとだまりこんでしまう子ども。聞こえないときはもう一度言ってもらうようにお願いすることや困ったときはこういうことで困っていると伝えるといいことなど、一つ一つ教えた。授業での子どもの言葉が変わってきた。算数で考え方がわからない子にかわるがわる説明する子どもたちの言葉。「○○君、ここまではわかる」と確認する。「わたしはもう説明できないのでだれか代わってください」と自分の状況を伝え、助けを求める。「ぼくが黒板を使って説明してみます」とピンチヒッターが名乗り出る。ともに学び合う教室がつくられていく。

 教師が子どもの言葉の力を意識すると、子どもの言葉が変わり、教室が変わってくる。「言葉の意味を知って上手に使えるようになったり、おもしろい言葉を見つけたりすると楽しい気持ちになります」と子どもは言う。言葉を上手に使えることの喜びを実感する子どもたちが育ってきている。
(刈谷市立富士松中学校)