本棚  漢字を楽しむ
阿辻哲次 著 BK1
講談社現代新書 2008.2 720円
漢字を楽しむ

 「漢字を読む」「漢字を書く」「漢字を作る」の3部で構成されているが、国語教師にとって興味深いのは第2章「漢字を書く」である。

 そこで、問題。「環」のツクリ下部をハネたら間違いかどうか。これは、漢字の書き取りテストの採点に疑問を持ち、長野県立梓川高校放送部が制作したビデオ「漢字テストのふしぎ」(「東京ビデオフェスティバル2007」で大賞を受賞。WEBで公開されている。一見の価値あり)で扱われている問題である。

 たいていの教師は×にするだろう。しかし結論からいえば○である。なぜか。中国の古い字体も戦前の活字もハネてあるが、戦後出された当用漢字字体表ではトメてある。それを元に明朝体や教科書体の活字が作られたからハネないようになったのである。しかし、常用漢字表にある解説では「筆写の楷書ではいろいろな書き方があるもの」の例として、トメる字体とハネる字体の両方が示されている。「辞書や教科書どおりに書かないと間違い」と教師は指導しているが、漢字を書くことはそれほど単純ではないということが、さまざまな典拠を引いて説明されている。

 「漢字を読む」「漢字を作る」の2章も漢字にまつわるおもしろ話が詰まっている。(常諾真教)