本棚  「読み」の整理学
外山滋比古 著 BK1
ちくま文庫 2007.10 560円
「読み」の整理学

 「読み」には「内容がわかっている文章を読む」のと「書かれている内容がよくわからない文章の読み」との二通りがある。「既知の読み方」ができても「未知の読み方」はそれにつれてうまくいくとは限らない、というのが著者の主張である。

 前者をアルファー読みと著者は名づける。例えば、野球の試合結果を伝える新聞記事。その試合を見た人、野球に関心がある人、野球を知っている人には簡単にわかる。既知に導かれて読む読み方はやさしく、楽しい。ものを読んでいるという満足感を与えてくれる。
 しかし、野球のことをまったく知らない人には難しい。文字や単語はわかっても、何のことを言っているのかわからない。既得の経験では役に立たない。このような読みをベーター読みと名づける。

 人はすべてを経験することはできないから、ことばによって未知の世界を知る。本物の経験ではないが、ことばによる知的理解を蓄えていくのが教育である。つまりベーター読みができなければ、子どもたちは学校で学んでいけないのである。低学年のアルファー読みから、高学年ではベーター読みへと移行できないと、「読むのが嫌い」「読めない」子どもになってしまう。自然に移行できなければ手だてが必要である。
 「読む」ことについて再考を促される書である。(常諾真教)