巻頭言
一瞬のいのちのきらめきを −子どもの詩の創造
野 呂  昶

 私は大阪の高槻市で毎年「夏休みに詩をつくろう」という講座を小学生を対象に開いています。その中から次のような詩が生まれてきました。

  ほたる   小学2年 保田悠斗
 ほたるは おしりがひかる
 ランプみたい
 いろんなところへいって
 つけたりけしたりしている
 まるで ランプで絵をかいているみたい

 夜空をほたるが、おしりの光をつけたり消したりして飛んでいます。よく見ていると、「まるでランプで絵をかいているみたい」だと悠斗君は言います。ほたるの光は生きている喜こびそのものです。喜こびがそのまま光の絵になっているのです。でも、この絵は描くあとから消えて、あとにはのこりません。しかし、のこらないからその絵は、いっそう美しいのです。ほたるの一瞬のいのちのきらめきを、見事に詩の中にとらえています。

  おちば   小学3年 中田歩奈
 あきのおちばは
 心のゆうやけのように
 心がじーんとする

 秋の雑木林は、色とりどりの落ち葉が散りしいて、まるで色彩の音楽を奏でているようです。歩奈ちゃんは、その景色の中に美しい夕焼けの景色を重ねて見たのです。 目の前の落ち葉と、心象の夕焼けが重なり合って、さらに美しい光景が心の中に生み出されています。そのふるえるような感動を歩奈ちゃんは、「心がじーんとする」というフレーズで表現しました。なんと的確で新鮮な言葉でしょう。

 俳句や詩など短詩形の文学では、短い言葉の中に、作者が体験した美や感動をいかに凝縮して的確に表現するかが課題になります。さらには、その表現が新鮮で作者独自の発見があること、そして、表現された美や感動が永遠性を持つこと(古くならないこと)が大切です。しかし、それはとても難しいことで、なかなかクリアーすることができません。ところが、これらの子どもの作品は、無技巧の技巧ともいえる表現で、軽やかにそれらを乗り越えています。子どもの純粋で澄みきった感性でのみ、とらえることができる世界ということができるでしょう。

 私達教育者の仕事は、子ども達がそうした作品を生み出す環境をいかに整えてやるかにつきるように思います。
(詩人)