本棚  いのちはなぜ大切なのか
小澤竹俊 著 BK1
ちくまプリマー新書 2007.9 680円
いのちはなぜ大切なのか

 中高生の自殺や殺人事件が起きると、もっといのちの大切さを教えることが必要だと言われる。
 著者は終末期医療に携わる医師の立場から「いのちの授業」を再点検する。「いのちに限りがあること」「正しい死の認識」「いのちのバトン」の3通りの授業の良いところとその限界とを検証する。

 「いのちの教育」には、普遍的な答えはないかもしれないが、個別性の高い答えをていねいに見つけていくことで、普遍的に共有できる「考え方」なら見つかるかもしれないという指摘は、授業を構想する上で大事な視点であろう。
 いのちの教育のゴールは、人や自分を傷つけないことである。傷つけるのは苦しみがあるから。しかし、苦しみはなくならない。苦しくても傷つけない方法を考える。希望と現実の開きが「苦しみ」であり、理不尽な苦しみは取り除けない。そのときにどうするか。

 そして、第4章で、人がおだやかでいられるための「3つの柱」について述べられる。@将来の夢、A大切な人との関係、B自己決定できること、つまり自律。「自分が大切な人間であると思えること=自己肯定感」がいのちの教育として大事なことであるという。
 大部の書でもなく、平明に書かれているが、中身は重い。(常諾真教)