本棚  ぼくには数字が風景に見える
ダニエル・タメット著 古屋美登里訳 BK1
講談社 2007.6. 1700円
ぼくには数字が風景に見える

 本書を読みながら、20数年前に出会った一人の子どもを思い出した。彼は、何年何月何日が何曜日かを即座に言うことができた。通りすぎた車のナンバーを正確に覚えていたり、車名を言い当てたりすることができた。しかし、他の子どもたちとおしゃべりをしたり遊んだりはしなかった。いつも自分の世界の中にいた。まだアスペルガー症候群という言葉も、発達障害という言葉も、誰も知らなかった。

 著者ダニエルは、円周率を2万桁以上も覚えてしまう。数字や数式が色のある風景に感じられるという。また、10か国語を話す。アイスランド語を1週間でマスターしたという。数学と語学の天才である。しかし、相手の気持ちがわからないためうまく会話ができず、いじめられたり仲間はずれにされ、ひとりぼっちの学校生活を過ごした。その時、どんなことを考えていたのか、何に興味を持っていたのか、何に困っていたのか、どんな関わり方が助けになったのかなどが、淡々と語られる。

 どの子にも当てはまることではないかもしれないが、今、特別支援教育を進めていく上でヒントになることが多い。私の出会った子もサヴァン症候群だったはずだが、今ならもう少し生きやすかったのにと思う。(原題:"Born on a Blue Day" Daniel Tammet 2006)(常諾真教)