本棚  近江から日本史を読み直す
今谷 明 著 BK1
講談社現代新書 2007.5 740円
近江から日本史を読み直す

 奈良(大和)や京都(山城)ではなく、なぜ近江なのかということについて、大和が日本の中心だったのは794年まででその後は一地方になってしまう。山城は平安遷都までは一地方にすぎなかった。近江は継体天皇を出すなど古代国家とは不可分の関係にあり、中世には仏教の中心地であり、また京都の後背地としての経済的な発展などを理由に挙げている。(『本』 2007.6 講談社)

 継体天皇を出した息長氏の話から始まる。米原市の息長がその地盤として紹介される。聖徳太子の時代では、遣隋使小野妹子の故郷である大津市小野、天智天皇の大津京、百済滅亡後に渡来人の拠点となった東近江市の石塔寺、壬申の乱、紫香楽宮、藤原京・平城京・東大寺の木材を供給した田上山等々…。

 幕末期には、野洲川流域の甲賀・野洲・栗太の三郡で天保義民の大一揆が起こり、「検地の十万日日延べ」を勝ち取った。明治の大土木工事である琵琶湖疎水、その翌年に起こった大津事件で本書は閉じられる。

 歴史上の出来事がその土地とのかかわりの中で語られる。よく知っている所にもそんな歴史があったのかと改めて知ることができ、また、知らない所には行ってみたくなる。滋賀県人としてはたいへん興味深い書である。(常諾真教)