巻頭言
シンガポールの風
宮 崎 勝 義

 平成十三年度から三年間シンガポール日本人学校に勤務させて頂きました。美しく安全で発展めざましい多民族国家として知られますが、そこで三年間暮らし、現地の人々と直に触れ合ってみて新たに気付かされたことも多かった気がします。その中から教育事情に関することを少しお話しします。
 淡路島とほぼ同面積で、資源にも恵まれないこの国では、優れた人材の育成を重要な国是とし、教育に並み並みならぬカが注がれている様子がうかがえました。

 赴任当初は、子どもの姿をほとんど見かけないことが不思議でした。常夏という気候にもよるのでしょう、我が国同様にテレビゲームなど屋内での一人遊びや運動不足の問題もあると聞きましたが、とにかく子どもたちはよく勉強しているようでした。小学生で眼鏡を使用している子どもたちの多さも驚きでした。また、日本の大学生がアルバイトをしていることについて「この国では考えられないことですが、一体いつ勉強できるのですか?」と聞かれて困ったこともありました。先生は尊敬されており、『教師の日』という国民の祝日がありました。私が教職についていることを知っている近所の子どもがその日にプレゼントを持ってきてくれたのにはびっくりし、感激しました。
 小学生でも科学者のような勉強をしている児童もいるなど、能力や向学心に応えて幅広く学習の機会が提供されているらしいことも印象的でした。

 ちょうど私の住居の斜め向かいに有名な女子中学校があり、職員と共に訪問の機会を得ました。
 素晴らしい施設や進んだ学習システムの下、伸びやかに学ぶ少女たちの素直な言動や屈託のない笑顔はそのまま日本の中学生と重なります。ただ、学校長の話された教育方針の通り、彼女達一人ひとりから「自分たちがリーダーとなってこの国の未来を創っていくのだ」という自覚や抱負のようなもの(それは薄っぺらなエリート意識などとは本質的に違う性質のものに感じられました)が溢れ出ているようで、とてもまぶしく、強く心に残りました。新しい国の息吹のようなものを在任中ずっと感じていましたが、その一部分に触れたような実感がありました。

 外から日本を眺め、振り返り、その良さを再発見する機会にも恵まれた内容の濃い三年間だったことを改めて感謝しています。
(川西市立牧の台小学校長)