巻頭言
小学生のためいきー日本語はムズカシイー
吉 沢 保 枝
息子が小学校二年生のとき、市販の国語テストに次のような問題があった。 文中の白枠の中に適当な言葉を入れよ、というものである。 「雨が降った[ ]、遠足はとりやめになりました」 易しいようだがなかなか難しい。 (ア) 「雨が降ったので、遠足はとりやめになりました」 (イ) 「雨が降ったから、遠足はとりやめになりました」 さて、どちらが正解だろう。 息子は、(ア)の方としてバツだった。「どうして(ア)ではいけないの? だって、よくこういう言い方をしているじゃないの。」 次の日、息子が先生に尋ねると、「模範解答が(イ)となっていたの」と先生のお返事。これじゃ納得できないというわけで、まず広辞苑を開いてみると、「ので」も「から」も同じような説明。仕方なく図書館へ行って”日本語文法事典”を開いて、やっと納得できる説明を見つけた。 口語の「ので」「から」は接続のしかたに違いがあるものの、用法・意味は極めてよく似ていて、原因・理由を表す。この説明にしたがって考えてみると、遠足がとりやめになったという事実が重要なのだから、白枠の中には「から」ではなく「ので」を入れるべきではなかろうか。 私には今でもよくわからないままなのだ。どっちでもいいんじゃないの、という気持ちさえする。 それにしても、なぜ小学校二年生の子どもにこのような難問・愚問をやらせて点をつけるのだろう。 金田一春彦さんは”日本語”という著書の中で「多くの国の言葉の中では、日本語はとりわけ難しい言語だ」とおっしゃっている。全くその通りなんだ。 日本語はムズカシイ! 子どものためいきが聞こえてくる。 (元京都女子大学教授・附属小学校長)
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