本棚  「死」を子どもに教える
宇都宮直子 著 BK1
中公新書ラクレ 2005.10 720円
「死」を子どもに教える

 「死の授業」−−デス・エデュケーションを紹介した本。

 少年による凶悪な犯罪が多発し、「命の教育」の重要性が指摘されている。しかし、学校では十分なことができないままで、学力向上に振り回されているように見える。「学科的に優秀な生徒を多く育てても、その中に死を思う生徒がいるのなら、指導は少しも輝きを持たない。基本の教育、それは生きる喜びを教えることではないだろうか」と著者は言う。
 驚くような調査結果が報告される。「人は死んでも生き返るか」という問いに対して、「生き返る」33.9%、「わからない」31.5%(小学校3〜6年)。ここからは、家庭でも学校でも、命の有限性を学んでいない子どもの姿が見える。

 本書では、愛知県岡崎市の中学校教諭 天野幸輔さんが実践してきた「死の授業」が紹介される。この授業を受けた生徒は、「死に対する興味が出てきたら、今を大切にして、後悔しないように生きたいと思った。自分はどう死にたいかとか、どう生きたいのかとか、この授業を受けていなかったら考えていなかった」と言う。
 死を思うことは、よりよく生きることにつながる。デス・エデュケーションは誰にでもすぐにできるものではないが、その成果の大きさを知る著者は学校での必要性を熱く説いている。(常諾真教)