本棚  先生はえらい
内田 樹 著 BK1
ちくまプリマー新書 2005.1 760円
先生はえらい

 昔は尊敬できるいい先生がいた、今は先生の質が下がったとよく言われる。しかし、人生の師と仰ぐような先生との出会いがあるかどうかは、先生の問題ではない。『「先生はえらい」と思いさえすれば、学びの道はひらかれる。だれもが幸福になれる』と著者は言うのである。

 つまり、「いい先生」というのはあらかじめ存在するのではない。「万人にとっての、いい先生」というのは存在しない。先生というのは、出会う以前であれば「偶然」と思えた出会いが、出会った後になったら「運命的必然」としか思えなくなるような人のこと、というのが著者の「先生」の定義である。

 次いで、恋愛と比較される。「尊敬できる先生」というのは、「恋人」に似ている。恋愛というのは「はたはいろいろ言うけれど、私にはこの人がとても素敵に見える」という客観的判断の断固たる無視の上にしか成立しない。恋愛が誤解に基づくように、師弟関係も本質的には誤解に基づくものであると言う。

 こう言われては、教師としてはいかんともしがたい。本書は中高生向けなので、残念ながら、「誤解」されるような教師になる方法は書かれていない。

 また、中間部分で展開されるコミュニケーション論も示唆に富む内容である。(常諾真教)