本棚  予備校が教育を救う
丹羽健夫 著 BK1
文春新書 2004.11 690円
予備校が教育を救う

 予備校とは、大学入試問題の解答テクニックを教えるところだと思われている。入試に役立たなければ意味がないのだから、確かにそれは予備校の第一義の目的である。しかし、それだけではないことが語られている。それがなかなかおもしろいのである。

 1970年代、学生運動を経験した全共闘講師によって変わっていった。例えば受験国語とは関係のないランボーについて熱っぽく語る授業に生徒が集まる。「国語を学ぶということは、問題の正解を出すための忌まわしい作業ではなく、美しさや激しさに触れて、感動したり共感したりする営為であるということを、はじめて知った生徒が多かったのだ。国語を学ぶ意味や価値を知ることは、それだけで国語力をレベルアップさせるものなのだ。」公教育の雛形ではなく、独自の教育空間となっていったのである。

 1985年頃、入試競争が激化し、「予備校のお家芸である知識の記憶、ドリル、正解発見のテクニック」などを高校でやるようになった。同じことをやっていても生徒は学習しない。そこで、予備校で教科の本質にかかわるところを教えるようになったという。役割の逆転である。

 第3部では大学の今後についても語られている。(常諾真教)