巻頭言
夏 の 素 敵 な 時 間
後 藤 克 巳

 夏休みは、学校に子どもたちが来ない分、出勤も定時に間に合えばいいことが多く、いつもよりも少しだけ、朝、ゆっくりできる。そんな利点を利用して、数年前から、毎朝起きて一時間くらい、庭の木陰で読書をすることにしている。夏の朝のさわやかな風を肌に感じながらする読書は最高だ。何年か続けているうちに次第にわが子たちもするようになり、今年は三歳の娘も加わり、子供三人と毎日外で朝読書をしている。いつもより、気持ちよく一日がスタートできる。

 「夏休みの朝読書」を始めて間もない頃、さだまさしのエッセイと出会い、彼が毎年作者を一人決め、その作者の作品を一年がかりで読んでいるということを知り、おもしろそうなので自分も始めてみた。仕事に就いてから、めっきりと読書の量が減った私は、この年を「読書元年」と勝手に決め、リセットボタンを押すつもりで、とりあえず五十音順に「ア」で始まる作者から読み始めた。今年は「ア」の作者から一人選び、次の年は「イ」の作者から一人選び、というように続け、今年は「カ」、「海音寺潮五郎」の作品ばかり読んでいる。はずかしい話、彼の作品は今まで全く読んだことがなかったのだが、大変おもしろく、その世界に毎日引き込まれている。覚えたてのひらがなを一所懸命に声に出しながら読んでいる娘の声が、潮五郎作品のBGMになっている。(作品内容とは、全くの不釣り合いだが…。)

 先日、「野球少年の長男」が入っているチームのバーベキュー大会の時、ある父親が、「…息子が遊んでくれるのはわずかな期間しかないんだよな…」とぽつりと言った。酔っぱらいの親父たちのうるさい会話の中でぽつりと言ったことばが妙に心に残った。日々の仕事に追われ、休日も長男次男が、「お父さん野球やろう」というのに対し、「ごめん、お父さん仕事」と断ることが多い。子どもたちとの朝読書もいつまで続くか…。

 もうすぐ、夏休みが終わってしまう。わが子たちと一人の作者と三者で共有する、私の「夏の素敵な時間」が終わってしまう……。 ───来年の夏はどんな作者の世 界にひたっているのかなあ……。いつまで「オヤジ」に子どもたちはつきあってくれるのかなあ……。来年も娘のBGMを聞きたいなあ……。
(静岡県掛川市立第一小学校)