本棚  ゆとり教育から個性浪費社会へ
岩木秀夫 著 BK1
ちくま新書 2004.1 720円
ゆとり教育から個性浪費社会へ
……文部科学省「21世紀教育新生プラン」の焦点は一部の人々に照準をあわせた能力主義であり、落ちこぼれる人々には「雇用柔軟型」の生活で満足してもらうというレーガン・サッチャーの新自由主義と脱近代能力主義に肩を並べはじめた……
と、表紙カバーに一文が引用されている。しかし、「新自由主義」「脱近代能力主義」と言われてもよくわからない。書名の「個性浪費社会」(生理・心理的特異性が素材のままで珍重される社会)もそうであるが、教育の分野では見かけない用語が次々に出てくるので決して読みやすいとは言えない。

 教育社会学専攻の著者は、政治経済システム・文化システムなどと学校教育との相互の関連を明らかにする。つまり、教育改革にかかるさまざまな施策が、教育の抱える課題のみから出ているのではなく、政治・社会経済的な政策と密接に関連していることがよくわかる。

 例えば、臨教審(1984〜87)の背景には、日本の巨大な貿易黒字があり、政府は経済政策を貿易依存型から内需主導型へと変える必要に迫られていた。労働時間短縮による消費拡充や規制緩和の政策が、教育面では「個性重視」「ゆとり教育」の基本理念につながっているという。

 日々の授業には必要のない知識かもしれないが、知っていれば視野が広がる。(常諾真教)