書くことで子どもを育てる
池 嵜 繁 伸

 県立びわ湖フローティングスクールでの3年間の勤務を終え、彦根市立平田小学校で教師生活の再スタートを切った。5年生を担任している。

 4月 クラスの子どもたちに会う以前に、周りから疎外されている春野さん(仮名)という女の子がいることを知らされた。
 新任式、始業式。さわやかな笑顔での出会いを心がけ、一人ひとりの表情に目をやる。恥ずかしそうに目をそらす子や明るい笑顔で応えてくれる子もいる。この子たちとの1年間がスタートするのだと思うと背筋がぴんと伸びるような心地よい緊張感を感じる。
 そんな式の最中、どうしても春野さんと周りの子の様子が気になる。すぐにどの子が春野さんなのかがわかった。とてもこわばった暗い表情である。春野さんの隣に座っている男の子は、明らかに不快感を示していた。式を終え、体育館を出る際にも、春野さんの側を大げさに避けて通るそぶりが何人かの子どもたちに見られた。

 学級開きでは「人の心や体を傷つけることは絶対に許さない」と宣言した。
 そして、その日の帰りの会で「一日の振り返り」を書かせ、これから毎日続けていくと伝えた。
 書く内容は、一日の学校生活を振り返って心に残ったことや担任に伝えたいこと。ときにはテーマを与えることもある。
 書く文字数については個人差があるが平均して約80字程度。どの子も5行は書くようにさせている。
 担任から短い返事を書く。学級通信に載せ学級全体に広げることもある。

 振り返りノートの大きなねらいは、子どもの心の動きを知り、担任や友達との豊かな人間関係を築くこと。書く機会がなければ何気なく過ぎ去ってしまうできごとが、書くことで意識化され、自分を見つめるきっかけとなる場合もある。


今日は先生におこられた。これからは春野さんに、ひどいことを言わないようにしようと思う。春野さんも、とってもいやな気持ちだったと思う。これからは気をつける。

 今日の中休みに春野さんと遊びました。春野さんは他の人に「きもい」とか言われているから、かわいそうだなあ…と思いました。帰ってからも遊ぶので、服や髪がたのアドバイスをしてあげようと思います。
振り返りノートを読み、子どもの心の動きが感じられたとき。自分が教師であることを再確認できる瞬間である。
(彦根市立平田小)