本棚  習熟度別指導の何が問題か
佐藤 学 著 BK1
岩波ブックレット 2004.2. 480円
習熟度別指導の何が問題か

 学力低下論争の後、急速に広がっている「習熟度別指導」の問題点が指摘されている。著者は、「習熟度別指導」は効果がないどころか、危険であると説く。

 欧米では、その効果が疑わしいことが明らかになり、すでに時代遅れになっているという。2000年に行われたPISA調査では、能力別学習を廃止したフィンランドやカナダが成績上位であり、まだ残しているドイツやスイスの成績が下位であるという結果が出ている。

 また、習熟度別指導に関して、「子どもは、能力や理解度や学ぶ速度が近いグループと一緒に学ぶほうがよりよく学べる」「低学力の子どもに即した指導ができるので、学力格差を縮小できる」「子ども全体の学力の向上をはかれる」などの考え方は、思い込みにすぎないと指摘される。

 アメリカでの調査研究では、上位グループの一部には有効に機能するが、中位・下位グループの学びを低次元に押し留め、生徒間の学力格差を拡大して学校全体の学力を抑制してしまうという結果が報告されている。

 上位グループの子どもにも、学校は多様な仲間との協同と連帯の場所ではなくなり、優越感と高得点を競い合う場所となり、「学校の塾化」が進むという。ぜひご一読を。(常諾真教)