本棚  漢字の知恵
阿辻哲次 著 BK1
ちくま新書 2003.12 700円
漢字の知恵

「漢字は古代人が作った智恵と世界観のカプセルである」
 日常よく使われる50の漢字を取り上げ、それらが作られた背景を探ることによって、古代の人々の生活や考え方が明らかにされる。しかし、たんに古代の話で終わるのではなく、現代の我々の暮らしにも話が及ぶ。漢字にまつわる楽しいエッセイである。

 例えば「」。「親とは〈木〉の上に〈立〉って子供を〈見〉ている人」という解釈がある。しかし、本来は左半分は〈辛〉と〈立〉であるから、この解釈は間違いである。そして、「親」の章は、
「近頃の親は、木の上で見守るどころか、入試でも入学式でも堂々と正面にしゃしゃり出てくる。それならいっそのこと大学にも『授業参観日』を設けて、入学後のご子息ご令嬢のありのままの姿を見てもらったらどうだろう。子供のあまりのていたらくに恥ずかしくなって、親たちはきっと、コソコソと木の上に登りたくなるにちがいない」(p19)と結ばれる。

 「」はホウキを手にする女のことで封建的な思想を表すと解釈されるが、このホウキは祭壇を清めるためのもので、それを管理する「婦」は神聖な職務につく女である。甲骨文では王妃の名前に冠する字として使われるという。

 我々が知っているのは俗解が多いことに気づかされる。(常諾真教)