本棚  日本語文法の謎を解く 「ある」日本語と「する」英語
金谷武洋 著 BK1
ちくま新書 2003.1. 680円
日本語文法の謎を解く

 英仏語など西洋の言葉と日本語には根本的な発想・世界観の違いがある。つまり、日本語は、何かがどういう状態でそこにあるという存在文中心の「ある言語」、英語は、誰かが何をしたという行為文中心の「する言語」である。

 「見えた」と1語だけでも日本語では文として成立するが、英語では see だけでは文にはならない。 I see it. のように主語が必要である。主語がなければ動詞の形が決まらないのである。日本語には主語は要らないと著者は言う。

 英語では、主語や目的語がないと文にならないから人称代名詞が必要不可欠だが、日本語では不要である。「行為者としての人をできるだけ表現しない」のが最も自然な日本式の発想であり、文の作り方だという。

 教室で、「主語に線を引きなさい」という指示に、子どもがよくとまどう。英語との比較の上で教師は理解しているが、日本語しか知らない子どもにとっては迷惑な話である。主語がない文があっても、それは省略されているのではなく、そもそも不要なのだから。

 他にも、自動詞と他動詞、尊敬と使役などについて、英語と比較しながら、日本語の特質が論じられている。国語教師としてだけではなく、日本語の使用者としても一読の価値がある。

 第1章 日本語と英語の発想の違い
 第2章 日本語と英語の「主語」
 第3章 日本語と英語の空間/人間
 第4章 「ある」日本語と「する」英語
 第5章 日本語と英語の受身/使役
(常諾真教)