本棚  学力低下論争
市川伸一 著 BK1
ちくま新書 2002.8. 740円
学 力 低 下 論 争

 <1999年に火がついた「学力低下」論争は、マスコミとさまざまな分野の論者を巻き込み、いつしか「学力低下」は現在の教育を語るときのキーワードになった感がある。本書では、この論争の全体像を描いた上で、その社会的・教育的な意味と今後の教育改革の方向を考えていきたい。>(まえがき から)

 私自身は、学力低下や教育改革に関して何冊かの本を読み、マスコミの論調なども見ながら、学校現場にいる我々が傍観者たらざるを得ない、つまり、現場の教育の指針とするようなものではないところに、もどかしさのようなものを感じていた。

 著者は、ある種の学力低下は認めながら、総合的な学習等の新指導要領に賛成するという立場をとり、論争の中では「折衷派」と見なされていたという。しかし、新教育課程の下、学校でできることは著者の主張するような方向ではないかと思われる。

 序 章 学力低下論争の構図
 第1章 学力低下論の源流
 第2章 学力低下論争の火ぶた
 第3章 論争の展開とその影響
 第4章 論争をひもとく
 終 章 みのりある教育に向けて

 終章で、著者は「ゆとり」より「みのり」ある教育を提唱している。一つは、「開かれた学び」(自分の将来に・より広い知的活動に・地域や実社会に対して開かれていること)というコンセプトである。今ひとつは、「基礎から積み上げる学び」だけでなく「基礎に降りていく学び」という学びの文脈を導入すること(教科学習と総合学習の両立)である。(常諾真教)