巻頭言
個 の つ な が り
島  恒 生

 さすがに忙しい夏だった。気がつけば9月の風が吹いていた。
 夏期休業中の教員研修が活発に行われ、教育研究所での研修講座と、各学校での校内研修に追われた毎日だった。
 そんな中、なるほどと考えさせられる様々な出会いがあった。その一つが、特別養護老人ホームの園長さんのお話である。

ー 私どものホームには、毎年多くの子どもさんたちが訪問してくれます。高齢者は、とても心待ちにしています。是非、これからも続けてお越しください。
 そのときにね、あまり深まらない交流と、とても深まる交流があるんです。例えば、みんなで合奏したり、歌を聞かせてくれたりする交流は、確かに楽しいのですが、大勢と大勢の交流でしょう、楽しかったねで終わっちゃうんです。
 それよりも、できるだけ一対一の交流がいいんです。例えば、子どもたちによる似顔絵描きなどがそれです。一対一で向き合って描いてもらった色紙を、高齢者は、それはそれは大事にします。子どもさんも、「○○さん、また来ますね」「今度は、○○さんと、これをするんだ」といった思いをもつことができるんです。ー

 私たちが子どもに体験活動をさせる場合、そのスタートは、「教師の願い」である。しかし、それが最後まで「教師の願い」で終わってはいないだろうか。「教師の願い」が「子どもの願い」へとバトンタッチされて初めて、その体験活動は子どものものになる。
 その意味で、園長さんの「できるだけ一対一のかかわりを」という言葉は、大事なポイントだと思った。十把一絡げの多対多である限り、子どもたちにとってもその体験は「単なるイベント」であり、はるか遠い「他人事」なのである。

 例えば、総合的な学習の時間の「課題づくり」などは、まさに「教師の願い」を「子どもの願い」へと変える大事な過程である。ここを丁寧に行わないと、させられている活動の域を出ない。「個のつながりや学び」を大事にし、見取ることが大切である。当然、特別活動での体験活動も同様である。
 「個のつながり」の大切さは、学級経営も然りである。「集団で動くのは当然」の時代はもはや過去のこと。「個のつながり」が満たされてこそ、集団としての活動が可能となる時代である。
 「個のつながり」の大切さを今一度、痛感した今夏であった。
(奈良県立教育研究所 研究指導主事)