巻頭言
「 書 く こ と 」 の 難 し さ
池 永 真 典

 中学校3年生の担任をしていると12月から2月までの間は特に忙しくなる。もちろん、入試事務に追われるからである。近年、私立・公立高校ともに「推薦制度」なるものが導入され、志願理由書・推薦書・作文・面接等、入試事務に関する中学校教師の忙しさは、それまでの数倍にもなってしまった。加えて、国語科教師には担任としての仕事以外にもう一つ重要な任務がある。それは、子どもたちの書いた作文等を読み、添削することである。そしてときには、教師が書いた調査書や推薦書の添削を頼まれることもある。

 子どもが書いた「志願理由書」を添削するのは、 本当に骨が折れる。志願理由をしっかりもっていないため、抽象的なごまかし表現が目立つからである。
  私が○○商業高校の○○科を志願した理由は、将来商業関係の仕事に就きたいと思ったからです。
 このような表現はよくテレビやラジオ等で耳にする。「お酒関係の飲み物」や「洋服関係の仕事」等のように○○関係という言葉を用いて、ぼかした表現をするのである。はっきりとはわからず、ごまかしたいときには都合のいい表現方法であるといえよう。さらに、「いろいろな技術を身につけたい」「頑張る」「努力する」等の言葉は、抽象的な表現の代表格である。何度も書き直しをさせながら、これら抽象的な表現をより具体的にしていかなければならない。志願理由を明確で具体的なものにしていくのは、本当に手のかかる大変な作業なのである。

 ところで、子どものみならず、教師の中にも手におえない文章を書く人がいる。
   高校卒業後は四年制国立大学で医学部への進学を考えている。
   書道四段・硬筆準四段という資格の下、丁寧な字でノート作りをしている。
 どちらもへんてこりんな文である。次のように簡単に表現できないものかと思う。
   高校卒業後は国立大学医学部への進学を考えている。
   書道四段・硬筆準四段である。

 文章を書くのは非常に難しいとつくづく思う。えらそうに言う私も、拙稿を見ていただくとお分かりのように、文章がとてもまずい。まずは自らの見聞を広め、文章力を高めていくこと。これが今の私の大きな目標である。
(北九州市立横代中学校)