コ メ ン ト で き る 力 を
伊 庭 郁 夫

 今年も、学級担任をすることができた。春休みに3人の転入生があり、81名となった4年生。3クラスでの出発である。

 始業式の日。教室に入ると、A児が教室の後ろでうずくまっている。新しい環境にうまく適応できにくいようだ。手を引いて、体育館へ。
 国語の時間も、A児は順番が回ってきても、本を読まない。読もうともしない。無理に何かをさせようとすると、パニックを起こす。我慢比べの時間も必要だ。私が腹を立てたらおしまいである。
 そこで、今年の学級経営の柱はA児を中心に据えようと思う。A児が喜ぶ授業や学級であれば、他の子ども達も、同様であろう。幸い、周りの児童の中には、A児の行動に批判的でないばかりか、手助けしようとする姿も見られる。

 『やい、とかげ』の授業。音読を大切にしたい。そこで、間違えれば交代する読みや「会話文」の読みなどを練習する。
 「だらしがないったらありゃしない」の会話は女子に練習させる。「東町公園へ野球に行くよ。早く、早く!」は男子である。暗記して声を出すと言葉が生き生きしてくる。
 次に、各班でめあてを決め、工夫して読むことにする。「全員の本読みを録音するよ」と宣言する。
 どの班の音読練習にも意欲が見られる。班のめあてを確かめる。「がんばって読む」など聞いていてコメントしにくいものは、わかりやすいめあてにする。
 ○大きな声で、はっきり読む。
 ○正しく読む。
 ○「会話文」に気持ちをこめる。などである。

 A児はと言うと、他の4人の子どもと一緒に練習している。中間発表会の時は、早口であるが、はきはきと読めるようになっている。
 「学級の中で、今年になって特にがんばっている人」と聞くと、「A児は、だいぶ上手になってきた」という反応が返ってくる。

 録音する当日は、授業前から調子が悪い。本も開けずに下を見ている。それでも、注意をせずしばらく他の話をして様子を見る。
 他の班の録音が始まる頃には、雰囲気を察して準備をしかける。本番の出番は3回。1回は読み誤ったが、その点を指摘するのでなく、成長を認める。

 録音を聞きながら、自己評価と相互評価を行う。読むところを覚えたという男子が数人いる。
「A君は、はっきり読めていた」が最も多い評価であった。
「家で練習した時より速かったけれど、上手に読めた」というB児。
「C児は、とかげになりきって読んでいた」とコメントした女子。
このように、自分の言葉でコメントできる子どもに育てたい。
(安曇川町立安曇小)