本棚  ひきこもる小さな哲学者たちへ
小柳晴生 著 BK1
生活人新書(NHK出版) 2002.1 660円
ひきこもる小さな哲学者たちへ

「人類が始まって以来つい最近まで、生きることは欠乏との戦いでした。… 近年のめざましい科学や工業の発展で、私たちは欠乏の苦しさからは解放されつつあります。しかし、それに代わって物や情報の洪水のような奔流に放り込まれたのです。そこで直面したのは、『豊かさを生きる難しさ』でした。たくさんの選択肢から、自分が本当に求めているもの、必要なもの、満足をもたらすものを見抜き、選び取りながら泳ぎ渡らなければならないからです。」 (p3)

 著者は、現代の日本社会を「豊かさ」ととらえ、これまで常識であった「欠乏を生きる知恵」ではなく、「豊かさを生きる知恵」が必要だと言う。そのような視点から、長年のカウンセリングの経験に基づいて、現代の子どもを読み解き、学校や子育てについて論じている。

 例えば、給食について。食糧難の時代には「どれだけ食べるか」が関心事であるが、量が確保されると「何を食べるか」に、飽食の時代と言われるようになると「どう食べるか」に関心が移る。その次は「いかに少なく食べるか」が課題となる。食べ過ぎれば肥満になり病気になるからである。しかし、学校給食はいまだに、みんな同じ物を食べ、残さず食べることがよいという認識しかない。

 「豊かさを生きる知恵」という視点で学校を見てみると、さまざまな面で、時代とのずれが見えてくる。視点を変えることのおもしろさに気づかせてくれる。

 1章 豊かさを生きる力とは
 2章 「良い子」から「自らを恃(たの)む子」に
 3章 教育が足りないのか、過剰なのか
 4章 カウンセラーから見た「学校の七不思議」
 5章 「ひきこもり」は哲学である
 6章 「子どもという自然」とつきあう
 7章 不要な「生き方」をいかに捨てるか

 初出は新聞連載なので平易で読みやすい。(常諾真教)