本棚  漢字と日本人
高島俊男 著 BK1
文春新書 2001.10 720円
漢字と日本人

 日本語はきわめて特殊な言語なのだそうである。どの言語でも音声を聞けば意味がわかるものだが、日本語は文字を参照しないと意味が確定しない。例えば「カテーの問題」と聞いたとき、無意識のうちに「家庭・仮定・課程」等の漢字を思い浮かべて意味を理解しているという。このような言語はおそらく日本語だけだということである。

 中国から漢字が入ってきたことによって、日本語が豊かになったと、歴史では習ったはずである。しかし、著者は漢字を取り入れたことは、日本語にとって不幸であったという。なぜなら、まだ幼稚な段階にあった日本語の発達がそこでとまってしまったから。また、漢字は漢語(中国語)には適した文字だが、日本語に合っているわけではないので、その後今日まで、日本語の文字として漢字を使うのに困難と混乱が伴っているからである。

 明治以降の国語改革の経緯もたいへん興味深い。明治になって西洋語からの翻訳語を漢字でたくさん作った。その一方で、漢字を廃止し、かな・ローマ字にする運動がさかんになった。戦後の当用漢字の制定や現代かなづいかいもこの延長上にある。

 第1章 漢字がやってきた
 第2章 日本人は漢字をこう加工した
 第3章 明治以後
 第4章 国語改革四十年
 終 章 やっかいな重荷

 また、漢字を通した日本人論にもなっている。読みやすく書かれているので、ぜひご一読を。(常諾真教)