本棚  声に出して読みたい日本語
齋藤 孝著 BK1
草思社 2001.9. 1200円
声に出して読みたい日本語

 4年生の校外学習に引率したときのことである。バスの中で、一人の子が、「一つの花」を暗唱し始めた。途中で間違えたり詰まったりすると、隣の子が助け船を出す。そのうちに周囲の子が加わり、数人で最後まで暗唱した。強制されて覚えたという感じはなく、とても楽しげであった。どんな学習をしたのかは忘れても、覚えた本文は子どもたちの記憶に残るのではないだろうか。

 本書は、暗唱のための素材集である。最近、あちこちで取り上げられてベストセラーにもなっている。中学・高校時代に意味も分からずに覚えた文章の意味がやっとわかった、というような感想も寄せられている。私自身も高校時代に覚えたものが多く、記憶の底から甦ってきた文章との再会が懐かしい。源氏物語、枕草子、平家物語、方丈記など古典の冒頭。藤村、中也、春夫、啄木などの詩歌。落語の寿限無やがまの油売りの口上など。

 著者は、『ここにとりあげたものは、日本語の宝石です。暗誦・朗誦することによって、こうした日本語の宝石を身体の奥深くに埋め込み、生涯にわたって折に触れてその響きを味わう。こうした「宝石を身体に埋める」イメージで楽しんでください』と述べている。
 小学生用の素材集もあれば、国語の授業が楽しくなるのではないだろうか。(常諾真教)