巻頭言
心 に こ み 上 げ て く る も の
堀 江 マ サ 子

「先生のお便りを額に入れて机の上に置き、勉強して合格したんです。」
 卒業式の日の生徒の言葉であった。生徒から「ジュビロ磐田の応援に毎日行き、勉強が手につかない。」との暑中見舞いが届いた。生徒の心の揺れに心痛めた暑い夏の日のことである。その折の私の自由律俳句は、左のようであった。
 ●暑中見舞ふと見せる教え子の弱み
「私はTさんの応援団です。努力してね。」との返事を書いたことを、記憶している。「先生のお便り」とはそれのことである。教師の日常には、この体験のように時々胸にこみ上げてくるものがある。これが教師になって良かったことの一つである。

 心にこみ上げてくる日々の思いを私の自由律から紹介したい。
 ●茶髪生徒に白髪染め教師が向き合っている
 ●机の上たたまれた制服が運動場の生徒を待つ
 ●新学期来れない子の席が悲しんでいます
 ●凍てついた道に雪降る不登校生の家
 ●運動場の笑顔が卒業していった

 私は教師になりたかった。その夢は実現した。なって良かったといつも思っている。細やかな心の交流。教えることは生徒から学ぶことでもある。生徒の作文を読んでいて一人ひとりのキラリと光る個性に感動している。
 私の作文教育の根幹は、読むことを書くことに組み込んでいくことにある。同じ教材を読んでも、生徒の人数の個性溢れる作文が生まれる。生徒の顔かたちが違うように、心の有りようも異なっている。生徒たちは書くことによって成長し、自分の人生を模索し歩んでいく。その過程において、襞と襞とが重なり合ったり、たたみあったり。晴れる日も曇りの日も、時には嵐の日だってある。
 私は後悔しない。教師という生活の中で、確かに生きていたのだから。後、五年と少し。毎日を惜しみながら授業を行っている。
(静岡県浜松市立高校)