読書、伝え合う喜び 「かぎりなくやさしい花々」
好 光 幹 雄

 読書は自分一人がする体験のその何十倍も何百倍もの未知の体験を追体験させてくれる。そして、自分が見向きもしなかったことに立ち止まらせ、考えさせてくれる。今までいったい何を見ていたのだろうか。何を考えていたのだろうかと読書によって自分自身を振り返らせてくれる。

 『「その人」と出会って』(光村5年下)は、このような読書のすばらしさを体験しようとするための窓口となる教材である。
 筆者が耳の不自由な女性と出会い、手話を学びはじめ、やがてその女性と結婚する話である。この話を通して、手話のすばらしさ、そして何よりも人と人とが伝え合える喜びを読者に語りかけている。 読書教材の扱いなので教材の細部を読みとる学習はしないで、筆者が一番語りたかったことだけを中心に、1時間扱いで学習を終える。その後教科書では手引きで、生き方や考え方を広げたり深めたりするためのいくつかの本が紹介されている。

 『かぎりなくやさしい花々』ものそ一つとして紹介されている。
 そこで、以前から機会があれば読み聞かせをしようと思っていた本でもあるので、次の時間からこの本の読み聞かせをすることにした。読み聞かせをする前に、星野さんについて簡単な説明と紹介をし、更に星野さんが描いた花の絵を子どもたちに見せた。
「ぼくたちが手で描いたってあんなに上手くは描けないなあ。」
と、こんな感想が多かった。

 さて、いよいよ読み聞かせを始めると、子どもたちはしんとなって聴いている。昔のことも書かれているので時々私が解説を入れたり、星野さんの書いた文字や写真、絵を子どもたちに見せるために机間を歩いた。退屈だという声もなく、時間が来たので今日はここまでにしておくと言うと、もっと読んでほしいという声も上がった。
 毎時間、星野さんの本の読み聞かせを楽しみにしているようで、その時間になれば、普段は私語をする子もしっかりと聴いていた。
 休み時間には、私の机の上に置いてあるこの本を二、三人でぺらぺらめくっている様子も見られた。約4時間で読み聞かせを終え、感想交流をした後、自由読書とした。読書離れが進み、最近の子は本を読まないと嘆いて何もしないのではなく、教師自身が感動した本を心を込めて読み聞かせをすることから始めてはどうだろうか。

 昨年訪れた愛知県岡崎市立根石小学校の実践は、まさしくこのことを全校ぐるみで取り組んだすばらしいものであった。難しいことをするのではなく、簡単なことの継続が力を育むのである。伝え合う喜びもこうして何十倍にも何百倍にもなるのであろう。 
(大津市立堅田小)