巻頭言
読 書 指 導 の 復 興 を
森 久 保 安 美

 昨今の、子どもの読書を巡る条件の向上は実にめざましい。
 今年五月、東京上野に「国際子ども図書館」が開館し、連動して今年は「子ども読書年」である。衆参両院で「国を挙げて子どもたちの読書活動を支援する施策を集中的かつ総合的に講ずる」と決議しているのである。司書教諭の必置も不十分ながら日の目を見た。

 また、トピック的であるが、子どもの読書によき刺激、大きなインパクトを与えたできごとが二つあった。一つは、一昨年の「国際児童図書評議会」世界大会における美智子皇后の基調講演である。「子供時代の読書の思い出」と題して、南吉の「デンデンムシノカナシミ」の印象やその後の思い、弟橘比売命の入水について愛と犠牲の一つになった美しさやその不可分性への畏怖等体験を交えながら、読書の持つ力について深々と語られ、多くの人が感銘を受けた。

 もう一つは、文芸春秋11年10月号に柳田邦男氏が「いま、大人が読むべき絵本」という特別寄稿をされ、「フランダースの犬」の主題を今になって発見したとういような経験をふまえ、特に生と死について語りかける絵本などを十冊具体的に紹介している。

 以上のような子どもの読書を巡る条件に対し、学校現場も、総合的な学習・単元学習・調べ学習等が盛んで、図書に親しむ機会が多くなっているようである。
 そのためか、学者の中には、学校図書館は調べ学習中心の学習資料センターでよいといった意見もある。しかし学校図書館の機能は、学習資料センターと読書センターの二つを備えるべきである。特に、調べ学習と称する授業を見ても、読書生活につながる要素は少ないように思われるからである。

 読書生活指導の基本は、スティーブン・クラッシェンの主張する(『読書はパワー』金の星社)自由読書であろう。ただ、この本では、自由読書の効果を言語能力の面についてのみ述べているが、読書が人間形成・心の育成に果たす役割を忘れてはならない。

 最近の「読書と思いやり」相関についての調査(講談社、佐々木良輔『読書科学』164号)によると、読書の好きな子、よく読む子は、そうでない子に比べて明らかに思いやりの気持ちが強いという結果が出ている。
 現在のような子どもたちの状態だからこそ、読書生活指導の充実を図りたいと思うものである。
(産業能率大学名誉教授)