巻頭言
さ ぬ き う ど ん と 国 語 教 室
平 井 克 己

 全国的に四国の県名は知名度が低い。四国の中でも高知、徳島は有名であるが、香川、愛媛はよく分からない人が多いようである。高知は「坂本龍馬」「いごっそう」の土地柄で有名である。徳島は「阿波踊り」であろうか。愛媛には漱石の「坊ちゃん」がある。しかし、香川は「菊池寛」であろうか。「向田邦子」も出身ではあるがあまり知られているとは言えない。

 しかし、讃岐という地名はよく知られている。それは「讃岐うどん」とも関連しているからであろう。ことほど左様に讃岐の「うどん」は有名である。かく言う私は讃岐にありながら、ラーメン党であった。讃岐にあって邪道である。現在、私は小学校三年生担任である。三年生の子供たちに食べ物で好きなものをあげてみるように言うと、うどんが一番多い。ラーメン党であった私もいつの間にか「うどん」が切っても切れない食生活の一部になってしまった。

 あるアンケートに一年間で食べるうどん玉の数というのがあった。その中でなんと男性の30%が一年間に400玉以上食べるとある。ということは、一日一玉以上食べることになるのであろうか。うどん好きな県民性がよく表されている話である。

 これほど県民全体が好きな「うどん」は、この県の食文化の中心である。古くは弘法大師(空海)が中国から持ち帰ったと言われる「うどん」は伝統食でもあり、現在の若者に愛されるファーストフードでもある。香川には「うどん」を語らせたら右に出るものがいないという御仁がたくさんいる。「うどん」について数え切れないほど書籍もでている。しかも、毎年のように発掘した「うどんや」が語られるのである。特に最近増えているのが、セルフサービスの「うどんや」である。うどん玉を自分で温め、ねぎ、しょうがを好みでのせる。または、しょうゆをかけて麺だけを楽しむ。素材を生かして自分なりの食べ方を追求する点で、国語教育と通じるところがある。日本語という素材を大切にしながら、自分なりの表現を獲得していく過程は似たところがある。国語教育も基礎基本という素材を生かしながら、それを越えて自分のことば、自分の語りを獲得しなければならないのではないだろうか。そこに伝統や文化を大切にしながら、個性を生かす「生きる力」があるように思われる。

 香川県では、きっと総合的な学習で「うどん」を取り上げる学校がたくさんになると思われる。
(高松市立日新小学校)