巻頭言
口 八 丁 と 心 の 教 育
中 原 真 知 子

「あなたの学校の紹介を簡潔にして下さい。」
と突然言われたら、咄嗟には思い浮かばない。ましてやそれを聞き手に印象深くとなればなおのことである。私は参観側であったが、まるで我が身を試されているかのような緊張感に包まれて模擬授業は進んでいった。

 去る3月4日、吉永幸司先生にはるばる香川県までお越しいただいて、模擬授業とご講演をしていただいた。内容は、作文や音声言語教育から授業を通して育てる人間関係に至るまでと、教育のエキスをそれは沢山いただいた。中でも印象的だったのは、冒頭の「話すこと」のご指導である。

 実は、私は教師という職業を選んでおきながら、幼い頃から人前で改まって話すことを大の苦手としていた。それなのに、訳あって中学校は一人も顔見知りのいない学校に進学したから、その弱点にますます磨きがかかった。
 ところが、当時の国語のY先生は今思えば先進的な教育をされていた方で、毎時間授業の始めに輪番制のスピーチを提案された。初めは嫌で嫌でたまらなかったが、慣れると不思議なものでそれほど苦にならなくなった。たまに誉められると、今度は何を話そうかと逆に張り切るほどになった。

 そんなことも関係して、自分でも7年ほど前からスピーチ学習に取り組んでいる。少なくとも子供が自分の二の舞にはならないようにという願いからである。
 初めのうちは「話すこと」中心に取り組んでいたが、だんだん「聞くこと」さらには「訊くこと」から「話し合うこと」へとステップアップしていった。
 手前味噌のようで書きにくいが、おかげでこの2年間担任した子供たちは抵抗なく人前で話せるようになり、1ヶ月に2回は話す機会があるので自然に友達同士の絆も深まっていった。また、クラス以外の集団の中でもこちらが驚くほど積極的に質問したり、意見を述べたりできるようになった。

 ただ、反面、ふと思うのは、私たちは決して「口八丁」の自己主張だけ強い人間を育てようとしているのではないということだ。口下手でも実行力のある人間と前者とでは比べる余地もない。吉永先生の模擬授業やご講演を契機に、当たり前だが「心の教育」と合わせて話す力を育てなければと肝に銘じている今日この頃である。
(香川大学教育学部附属高松小学校)