巻頭言
お か め き け す も の
和 田 国 明
故郷は、カカア天下とからっ風の群馬県。この郷土で少年時代を過ごした人ならば、多分、この暗号文のような言葉をきっと忘れていないと思う。 そういう私も、四半世紀たった今でも、はっきり覚えている。九九を暗記するように、この呪文を町内会の子供どうしで唱え合った。 知り合いに、群馬で暮らした人がいれば、きっと知っているだろう。仕事で、お互い群馬出身であることがわかると、必ずこの話題で盛り上がる。 「上毛かるた」という郷土かるたの役札である。 (お)おた金山 子育て どん竜 (か)んとうと信越つなぐ 高崎市 (め)いせん おりだす 伊勢崎市 (き)りゅうは 日本のはたどころ (け)んと 前橋 糸のまち この五枚の役札を取れば、プラス20点。勝ったも同然で、子供心に、地名を覚え、一生懸命になる。 (す)そのは長し 赤城山 (も)みじにはえる 妙義山 (の)ぼる 榛名のキャンプ村 この三枚はプラス10点。遠くに見える上毛三山の山々を、これで覚えた。 かるたの枚数は、44枚。同点になった時、勝敗を決めるのは「つ」の札があるかどうか。 かるた取りの始まりも、この札のカラ読み二回の儀式からで、正座をして、読み札を読む人(保護者か地域の人)の朗読を静かに聞き、神経を取り札の絵札に集中する。 ![]() 地図で見ると、確かに鶴が舞っているように見える……。 正月は町内会で練習し、小学校の体育館で、個人戦と三人一組の団体戦を町内対抗で行い、優勝チームと個人が、市大会、県大会と進出する。 (あ)浅間山、(い)伊香保温泉、(う)碓井峠、(え)縁起だるま、そして、(く)草津温泉も、(こ)内村鑑三も、(へ)新島襄も、地名や産業、偉人たちを知らず知らずのうちに学習していた。 「特別活動」で行ったか、社会、国語で「カルタ取り」をしたか記憶は定かではないけれど、歳月を経ても、”郷土”を親しみを持って学習したことは、「総合的な学習」の先駆けではないかと……。 (ち)からあわせる 二百万 この札だけが、数字が変わる。私の覚えた頃は、一六〇万だった。群馬の人口である。 (小学館「小六教育技術」編集部)
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