教 師 が 国 語 教 室 「 前 に な れ 」
中 嶋 芳 弘

 全校集会などの時、先頭に立った代表の児童が号令をかける場面がある。
休め。きいつけ。前になれ
しっかり自分のクラスを並べようと声に力が入っている。しかし、何か変である。
これは、「休め。気をつけ。前にならえ」という号令のはずである。力んでいるから、そうなったのかと耳をそばだててみるが、彼は確かにそう号令しているの である。
 なぜ彼は真顔でそんな号令をかけているのであろう。そばにいる教師も何も言わない。つまり、彼は教師がいつもかける号令をそのように聞き取っているのであり、教師の号令もそのように聞こえるものになっているということであろう。これに類したことは決して少なくないだろう。
 教師は身近な言葉の教材である。
今は教室を離れたが、思い出してみるとクラス担任をして1年もすると確かにクラスの何人もの児童が私の口調に似てきたものである。イントネーションや間の取り方。言葉の切り方。教師の日常の口調は少しずつ、クラスの児童の話し方に影響を与えるのである。

 範読、板書やノート、プリントの文字。少しずつ確かに影響を与えるものの何と多いことであろうか。
 しかし、若い教師時代、いや、大学時代に「教える立場」を自覚して「日 本語」を習いなおした覚えはあまりない。皆無でないのは、私がたまたま国語・書道専攻の学生時代を過ごしたからである。
 ワープロが大活躍の今日、鉛筆の持ち方や文字の書き順など大切に考えない児童も多い。しかし、書き順の違いは文字の形を変えてしまう。
「先生、書き順なんて違ったって字の形があってたらいいんでしょ。」
と質問する児童に、
「人間は言葉と文字を使って、たくさんの知識を時間や場所の壁を越えて伝えてきました。だから、今のこんな豊かな生活があるのです。文字や言葉は約束の かたまりです。その約束を人がそれぞれ勝手に変えていったらどうなりますか。」
「みんなが少しずつ変えていったら、最後には別の字になって、読めなくなってしまいます。」
「そういうことですね。」
などと返答する私である。

 さて、そんなわけで、最後に私の選んだ10字について、書き順を自己チェックしてみてください。
 ひらがなから「せ、も、や
 カタカナ「シ、ツ、ヲ
 漢字「長、馬、歌、書」 
(彦根市立旭森小)