巻頭言
フ ィ リ ピ ン の 識 字 学 校
伊 藤 良 三

 フィリピンの山間部には、公立の小学校がない地域が存在する。そこでは、子供たちは学校教育を受けることなく成長していく。
 長男の誕生を機に、そのような地域の識字教育を支援するNGO活動の会員になった。昨年2月、識字学校を建設するためにリザール州ライバン村を訪れた。その時の様子を紹介させていただく。

 学校の校舎建設にあたっては、子供たちも参加した。川砂の収集運搬、屋根のトタン板のペンキ塗り、外構の植樹などを行った。そのため生徒は学校に強い愛着心を持っている。
 生徒は、全教科共通の1冊のノートと1本の鉛筆を大切に使っている。教科書の支給もない。黒板とチョークが唯一の教育資材である。

 訪問した際に、教育には素人の私も授業をする機会を得た。「英語とタガログ語の会話」や「10までの数の加減」について、私と子供たちが相互に先生になり生徒になり学ぶのである。ほとんどの子供たちが目を輝かせて、私の授業に参加してくれた。「解った人は」と言うと、多くの子供たちが元気よく挙手してくれた。年令や学力の異なる子供たちが1クラスになっている。子供たちにとっては難しすぎたり、簡単すぎたりということが当然起こってくる。それでも私語もよそ見も全くない。子供たちの学習意欲が、教育技術のない私でも授業を成り立たせるのである。我々のNGOの会員には教員の方も多い。識字学校で授業をされた教員の方々が「今までに生徒がこんなに目を輝かせて、私の授業を聴いてくれたことがない」と感動されていたのがなるほどとうなずける。

 村では、毎朝子供たちが水汲や村の広場の清掃をしている。昼休みや放課後には、弟や妹の子守をする姿が見られた。子供といえども家事労働を受け持っている。
 学校は子供たちを家事労働から解放し、自分の時間と空間を与えてくれる。とにかく、学校は子供たちの楽しい場所なのである。登校拒否も学級崩壊も無縁の世界であった。
 子供たちが生きる希望と力を身につける学校づくりには、まだまだ課題が山積している。
 しかし、我々のNGOは小さな組織である。この誌面をお借りして、一人でもこの活動に関心を持っていただければ幸いである。
(海外教育支援協会理事)