巻頭言
ロ ン ド ン の 学 校 現 場 と 大 学 の 共 同 作 業
澤 本 和 子

 今年1月にイギリス(連合王国)を訪問した折、教師教育における、大学と学校現場の関係の深さに感銘を受けた。ここでそれを、紹介しようと思う。
 まず驚いたのは、教育実習である。インターバルを置きながら、実質4ヶ月間、現場で実習するという。実習生は大学と学校現場を往復して、実践から学んだことと、教育理論を結び合わせる勉強をする。その成果を持って、現場に戻り更に研鑽を積む。このとき大学教員や実習校の教員が、相互にゼミに参加し合い、指導が進められる。文字通り、学校現場が大学と共同で教員養成に携わるという。実習の評価が採用に関わるようだ。大学院の現職教育も、現場と大学の往復で進める手法がとられている。この背景には、大学院教育を受けてキャリアアップする、現職教員研修システムがある。

 また大学が現職教育に開かれているのも、大きな驚きだった。ロンドン大学教育研究所図書館は、夜間も週末も開館しており、教員が自由に利用できる。身分証明があればすぐ手続きしてくれる。地下にはコンピュータルームがあり利用できる。図書館は開架式で、利用しやすい。分からないことは、常駐しているリファレンスの相談員に聞く。
 この2階に教材関係のコーナーがある。ここには教科書の他に、手作りも含む多様な教材・教具、ビデオ等が多数ある。それを借りて、その場で教材作成ができる。書棚の隣に大きな机や多数のコピー機、ビデオ機器等がある。その横には、大学で開発した様々な教材教具や、教材作成用の道具・材料の売店もある。教材作りの支援者が、店の人である。学生が次々に訪れて相談している。

 今回参観した下町の公立小学校では、学級の3分の1前後が外国人家庭の子女で、保護者が英語を使えない家庭も多いという。何十もの国からの子女を預かる悩みを、校長先生が語ってくれた。そして、別れ際に、我々が支払ったフィー(参観料)で、「子どもたちの教材を買うことができます。ありがとう」とにっこりわらったとき、限りない愛情と喜びを、私たちも受け取ることができた。
 3年ぶりにロンドンのでこぼこ道を見て、日本も数年後にはこんな町に変わるかもしれないと感じた。けれど、物質的制約のなかで、心をこめた教育が行われているのに強い印象を受けた。
(日本女子大学)