五 分 間 話 そ う
廣 瀬 久 忠

「この二日間の出来事を五分間、おうちの方にお話できる人、手を挙げてごらん。」
の問いかけに多くの子どもたちは自信に満ちた眼差しで手を挙げる。

 びわ湖フローティングスクール学習船「うみのこ」で今年度は、開校式と閉校式の挨拶を担当し、乗船した五年生の子どもたちに話しかけている。
 開校式での子どもたちへの言葉がけは、おもに児童学習航海での心構えが中心になる。
先ずは、船の世界で非常に大切にされている「あいさつ」について、必ずふれることにしている。
 フローティングスクールが大事にしている「さまざまな出会い」の中でも人と人との出会いを大切にしてほしいと願っている。他校の子どもや先生、船のスタッフとの出会いを気持ちのよい挨拶からはじめてほしいと願う。
「挨拶のあとにつながる言葉を大事にするのですよ。」
とつけ加えて強調している。特に子ども同士が新たな出会いに緊張感を持っていて、できるだけ早い内に打ち解けられるよう心を配っている。
「はじめまして。よろしく。あなたは活動係やね。長浜でのタウンウォークの時はよろしく。」
などと相手に応じた言葉がけができれば、出会いの時から随分と和んだ人間関係が生まれる。
「はじめまして。よろしく。」
でもいいのだけれど、場に応じた会話が生まれるよう子どもたちに少しの勇気を出すことと言葉を選ぶことを伝えている。ふだん学校ではなかなか経験することのできない非日常の場でこそ指導できる好機である。

 続いて、「よさを見つけよう」と声をかける。
 「郷土・琵琶湖のよさ」「友だちのよさ」「自分のよさ」を見つける二日間にしようと声をかける。
 潤沢に準備されている直接体験の場で研ぎ澄まされた五感を持って感じとらせたいし、「よさ」を見つける前向きな姿勢に加え、自己の成長をも自覚させたい。
 しめくくりには、冒頭の問いかけを閉校式でする事を約束する。

 子どもたちが私の問いかけをどれほど意識しているか定かではない。ただ、これから始まる三十時間に対する期待とときめきの溢れんばかりの瞬間を逃すことはあまりにももったいない。
 家へ帰って五分間話すことはたやすいことではないだろう。心配しながら待っていてくれた家族が聞き手である。体験したことを自分の言葉で話すことの難しさと話すことによって改めて分かる自分の考え方を自覚する場が乗船した子ども一人ひとりの家庭に生まれていることを願っている。
(滋賀県立びわ湖フローティングスクール)