▼男の子は、1本のバナナを妹と分け合い朝食の代わりにして登校した。(勤めに忙しい母親の心を感じて辛抱しているのかもしれない事情もあった。) 残暑厳しい2学期の始まりは運動会の練習。バナナ半分の朝食では、体力がもたず練習中倒れるというできごとが起こった。

▼その日は弁当持参の日。早めに弁当を食べさせることが賢明とも考えた。が、その子が学級で何かと話題になっていることを知っていたので、早めの弁当にはためらいがあった。「あなただけ早めに食べて、後で友だちに何か言われて、うまく説明できますか」と尋ねた。返事は否であった。

▼弁当持参の日は、教師も弁当持ち。妻の作った弁当を早めにその子と食べ、できごとを解決した。その子は遠慮して少ししか食べなかったが、それでも笑顔で運動場へ戻っていった。

▼この経緯を気づかって担任が「今日のことを家庭に伝え、しっかり朝食をとるように伝えましょうか」と相談に来た。「その必要なし」と返事した。もし、その子が、今日のできごとを大切なことと受け止めたら、自ら伝えるであろうし、親切の押し売りのような気がしたから。

▼翌日、母親から反省の意味をこめてお礼の手紙が届いたとの報告があった。

▼伝えることと気づかせることとがあるーーそんなことを学んだできごとであった。あの男の子、今はどうしているだろう。 (吉永幸司)