心 の 落 書 き
好 光 幹 雄

T:みんな「落書き」からどんなことを想像するかな。
C:いたずら/へい/ちょいと書ける/絵と文字/悪い/しかられる/ひま/すみっこ/ストレス解消/遊び心の現われ/書く道具/思ったまま/棒人間(絵)
T:なんか悪いってイメ−ジが多いけど、みんな経験したことが、そのまま出てきているようだね。では、先生が板書する詩をノートに写して下さい。

    落書き

  お母さんが
  かがみをのぞいて
  顔に落書きしてた。
  でかける前は
  いつも
  顔に落書きしてる。
  「どこにでも落書きしちゃだめよ」
  と言うくせに
  自分は
  顔に落書きしてる。


 この詩をめぐって子ども達の解釈が交流され、更に作者はどんな人だろうかと作者の人柄へも子ども達は想像を膨らませた。谷川俊太郎さんだろうか、川崎洋さんだろうか。子どもの気持ちのわかる人だから金子みすゞさんだと思いますと言う子もいた。私も多分そんな著名な詩人かなと想像した。

 今日は会場にこの詩の作者をお呼びしているんです。授業者の白石範孝先生(筑波大学付属小学校)がそう言うと、会場がどっと湧いた。日本国語教育全国大会、虎ノ門ホールのステージの上に六年生を上げての提案授業の一幕である。 なんと登場したのは、クラスは違うが同じく筑波大学付属小学校六年生の工藤君。
 この詩に込めた思いを工藤君が語ってくれた。工藤君が二年生のとき、学校から水族館へ行った際、クレヨンで落書きをした。当時担任だった白石先生から叱られ、家に帰るとまた母にこっぴどく叱られた苦々しい体験があった。それが三年生のときに鏡の前で化粧をしている母の姿を見たときに思い出されたのだそうだ。

 さて、授業の一コマだけしか紹介できないのが残念だが、この提案の趣旨はブック(詩)トークをするためのプロット作りをする過程を公開し、子ども達が凝縮された言葉の世界をどのように読むのかを明らかにしようとしたもの。詩の作者の話や体験を聞くこともその手立ての一つとしている。

 浜本純逸先生(神戸大)は改行の意味から詩に託された作者の心・人柄をとられることも大切なことと助言されたが、白石学級の子ども達は見事にそんな新たな詩の読みにふれていた。しかも詩も心の落書きなのだと気負わずに。
(大津市立堅田小)