扇 げ 扇 げ  扇 ぐ ぞ 扇 ぐ ぞ
好 光 幹 雄

 生まれてはじめてはいた白足袋。なんともよい木の香りが漂う舞台。さて、扇子を腰に差し、いざ。
「これはこの辺りに住まひ致す者でござる。某(それがし)、ちと所用あって、山一つあなたへ参らうと存ずる。まづ両人の者を呼び出だし、留守の程を申し付けうと存ずる。ヤイヤイ両人の者、居るかやい。」
「ハアーッ。」
ご存じ狂言「附子」の冒頭である。大津市立伝統芸能会館(三井寺の門前)の舞台に立った私は、子どものように興奮していた。
 大津市小学校国語部会では、本年度夏期公開実技「狂言」研修会を開いた。子どもに狂言を指導する以前に、先ず教師自身が狂言の楽しさを十分に味わい親しもう。またその経験が指導の際に役立つであろうという考えからである。

 指導をしていただいたのは高橋茂道先生。高橋先生は元高校の教頭先生であるが、七十歳になられてから、大蔵流の狂言師茂山七五三氏に師事され、現在では芸能会館主催の「OTSU狂言塾」のご指導をされる一方、市内の幾つもの小学校からの依頼で児童に直接指導もしておられる。
 今年八十歳とお聞きしたが、とてもそのようなお年とは考えられない程の響く声、そして機敏な動作。若い教師達の方が先に参るぐらい精力的にご指導いただいた。
 参加した教師は二十五名。「附子」ということで、六年生担任が多かったが、それだけに指導を受ける心構えとやる気は十分であった。私と同様、皆がはじめて舞台に立ち心地よい緊張感を味わったに違いない。

 先生の言う台詞の後に続けて言う発声練習を一時間ばかりで一通り終えてから、いよいよ型(動作)を入れた練習となった。
 何と言っても扇子で扇いだり、附子の桶を取り合ったりと、おもしろくて滑稽な動作をするのだが、見ているよりもやっているものの方が楽しくて仕方ない。教師も子どもの立場になってやってみることの大切さを痛感した。

 狂言に心得のある和田眞由美(長等小)平野敏彦(上田上小)両先生には型の講師としてご協力いただき、事前打合せ会に二度もご足労をいただいた。しかし高橋先生をはじめ、講師の先生方の熱心な準備のお陰で、本当に有意義な研修会が持てた。参加者から来年もまたこの研修会を開きたいですねという感想が幾つも聞かれた。
 最後に、この場を借りて講師の先生方、そして研修会の相談を快く聞いて下さり、また講話をいただいた館長の郷間隆先生、更に研修会開催に当たり直接お世話になった市教育研究所の井岡きよ子先生に心よりお礼申し上げます。
(大津市立堅田小)