【身体拘束ゼロへの取り組み事例】

 身体拘束が原則禁止され、つなぎ服の使用や4本柵使用の

 廃止に向け、取り組んでおられる方々の事例をあげさせて頂きます。

 

施設における取り組み事例

 

ミトンの使用事例

【状態:要介護5、痴呆(W)、寝たきり、ADL全介助、失語症、認知・理解力は不明】

拘束に至った経緯

手の動きが激しく、胃瘻チューブやバルーンカテーテルを引っ張る等の行為があり

抜去することもあった為、家族の同意を得て、ミトンを着用することとなった。

 

取り組み

・胃瘻チューブやバルーンカテーテルから意識をそらせる為、レクレーション等へ参加させる。

・訪室ごとに手に触れ、声かけをする。(家族にも依頼)

・普段の様子から、何かを手で握っていたほうが安心感があるのではないか?との

 気づきにより、吸湿性があり洗濯可能でソフトな物を家族に用意してもらった。

・家族手作りの、タオルで作られた動物のぬいぐるみ(手で握る大きさ)を持たせた。

・経管栄養注入中は、観察や声かけを多くし、ミトンを外した。

 

結果

ぬいぐるみが気に入ったようで、優しい笑顔が見られるようになった。

精神面でも有効だったと思われる。現在では表情が明るくなり、

チューブを抜く事はなくなった。 ミトンの使用は、その後まったく

必要としない状態となった。

 

 

拘束衣(つなぎ服)の使用事例

【状態:要介護5、痴呆、単独歩行可】

拘束に至った経緯

弄便(便いじり)や紙おむつをちぎりる等の行為が再三あった。

また体を掻きむしり、皮膚剥離が見られた事から、拘束衣の使用となった。

 

取り組みと効果

・拘束衣をやめ、紙おむつから、ちぎることのできない布おむつへ変えた

・便意・尿意のある事がわかり、また不快感から弄便に至る事がわかり

 排泄パターンを把握し、適時トイレ誘導を行った。

 →布おむつは夜間のみとし、日中はパンツ式のおむつに変えた。

 →対応が遅れると、パンツ式おむつをちぎる事もあった。

・訪室回数を増やす・見守りを強化する等、排泄物による不快感をなくすよう、

 適時おむつ交換・清拭・洗浄を行った。

・便秘がちであり、便秘が続くと苛立ちが見られ、また下剤使用後は

 薬が強すぎた為か、軟便・頻便となることがわかり、下剤の使用回数・

 量を再検討し実施した。

・皮膚のかゆみから苛立ちが見られることがわかり、かゆみの訴えごとに

 軟膏塗布を行った。

 →訴えに素早く対応する事や体に触れる事で、精神面で安定がみられた。

・パンツ式おむつのゴム部分が痒いため掻くこともわかり、布製のパンツに変え

 パットのみの使用とした。

 →失禁後パットを引き抜く行為が見られた。

・意識を痒みからそらせるため、スタッフの声かけ(会話)を増やし

 レクレーションへの参加を促した。

 

結果

精神面での安定が見られ、おだやかな笑顔が見られるようになった。

排泄パターンに合わせたトイレ誘導により、失禁が少なくなった。

また失禁後は自ら訴えるようになり、拘束衣の使用は必要ない状態となった。

 

 

4本柵の使用事例

【状態:要介護5、痴呆、立位不可、自力歩行不可、夜間せん妄あり】

拘束に至った経緯

夜間せん妄が見られ、興奮状態から粗暴行為あり。ベットから転落を

繰り返した為、転落防止の為4本柵使用となった。柵を乗り越えようと

する姿が見られ、大変危険であった為、対策を必要とする状態であった。

 

取り組み

・いざる姿が見られる事から、畳部屋へ移すことを考えたが部屋が

 空いておらず、衛生面に配慮しながら、ロータイプベット

(ベットの足が短いタイプ)を使用した。

 

結果

自由にベットから床・床からベット・居室内を、いざりながら移動する姿が

見られた。いざり移動により運動量がはるかに増え、夜間熟睡するようになり

夜間せん妄は見られなくなった。また食欲が出て意欲的になったように思う。

 

 

上肢の抑制事例

【状態:要介護4、痴呆、右半身麻痺、認知・理解力乏しい】

拘束に至った経緯

経管栄養チューブを再三抜去してしまう。認知・理解力が乏しい為

説明が理解できないようであった。止むを得ず、経管栄養摂取時のみ

左手を拘束するに至った。

 

取り組み

・見守りを強化する為、経管栄養摂取は、車椅子で座位姿勢にて

 ナースステーション内で行うとした。

・チューブやボトル・点滴台が本人の目に触れないように、本人の後方に

 置くようにした。

・意識を他へそらせる為、スタッフが声かけ(会話)をしたり、

 タオルをたたんでもらう等の簡単な手伝いを本人に依頼した。

 

結果

スタッフとのコミュニケーションが以前より図れ、おだやかな笑顔が

多くみられるようになった。現状況下では、拘束の必要は無い。

 

 

車いす抑制事例

【状態:要介護5、痴呆、左半身麻痺、移動・移乗全介助】

拘束に至った経緯

 車イスでの座位はある程度できていたが、体が左に傾きやすく

また右下肢筋力の低下もあり、座位がズレることが再三あった。

転落防止の為、安全ベルト使用となった。

 

取り組み

・リハビリを行い、右下肢筋力の強化を実施した。

・座布団の下に滑り止めマット(メッシュタイプ)を使用。

・左に傾きやすい為、車椅子との隙間にクッションを挿入。

・見守りを強化した。

 

結果

体のズレが少なくなり、座位が安定した。

現在安全ベルトの使用は、まったく必要としていない。

 

 

【要介護4、痴呆、廃用性下肢運動障害】

拘束に至った経緯

腰椎の湾曲が強く前傾姿勢になり、座位が不安定で、車椅子から

転落する事があった。危険防止の為、やむを得ず安全ベルト使用に至った。

 

取り組み

・車イスをリクライニング式に変え、バックレストを少し傾斜させて使用した。

・両下肢の下にクッションを挿入し、フットレストからのズレ落ちを防いだ。

 

結果

リクライニング式車椅子を使用する事により、座位バランスが安定した。

また下肢を挙上した事で浮腫も軽減した。安全ベルトの使用は

必要としていない。

 

 

【要介護3、重度痴呆、下肢筋力低下、認識・理解力乏しい】

拘束に至った経緯

食事中は他入所者の食事を取ってしまうといった行動が見られた。

興奮が強く、車椅子に座っていても暴れたり、下肢筋力が

低下しているにもかかわらず、急に立ち上がる等して

転倒の危険があった為、車イス抑制に至った。

 

取り組みと効果

・拘束廃止に向け、家族へ説明し同意を得た。

・日中は常に職員の目の届く所で過ごしてもらい、

 洗濯物をたたんでもらう等、本人に作業を依頼した。

 →すぐに飽きてしまうような様子が見られたが、

 職員の声かけ(会話)には、常に安定した穏やかな反応があった。

・レクレーションへの参加を促した。

 →歌に合わせてリズムを取る行為が見られた。

・家族に頻回に来所を依頼(特に夕方)した。

 →夕方になると落ち着きがなくなっていたが、家族の頻回の来所により

 安心感が得られたのか、暴れるような事はなくなった。

・食事は少人数のテーブルについてもらい、お茶を配る等の作業を

 依頼した。

 →未だ他入所者の食事に手を出そうとされるが、注意をうながすと

 元に戻し、配っているような態度が見られた。

 

結果

拘束廃止にあたり、家族と職員とのコミュニケーションが密になり

共に良い方向へとの思いから、協力しあえた事が良かった。

安全ベルトが外れ、車イスから暴れて立ち上がる事は

なくなった。言葉にはならないが、発語が増え、表情が明るくなり

穏やかに過ごされるようになった。常に見守りが必要な状態から

側について居なくても良い状態へとなった。

 

 

言葉による行動抑制事例

【要介護3、重度痴呆、徘徊・異食あり】

拘束に至った経緯

落ち着きがなく、他入居者の部屋へ入る・食事中に歩き回る

他者の物を違う場所へ持ち運ぶ等の行為があった。

歩行にはふらつきがあるため目が離せず、職員の手があいていない時は

「ちょっと待っててね」「じっとしててね」「ここに居てね」等と

言葉による行動抑制、行動範囲の抑制が行われていた。

 

取り組みと経過

・「歩き回る事は危険な事である」との職員の意識を、『欲求の現れ』であると

 意識づけし、行動の抑制をやめ、一緒に介助歩行するよう努めた。

 →はじめのうち不安定な歩行であったが、介助歩行を続けるうち

 下肢筋力が強くなり、安定した歩行が出来るようになった。

 →この為、転倒傾向はなくなり、遠くから見守る程度でよくなった。

・物を持ち運ぶ行為は、整理整頓のつもりであるように感じられ

 抑制をやめ、洗濯物を一緒にたたみ運ぶ等の手伝いを依頼した。

 →積極的に手伝ってくださるようになり、顔の表情が豊かになった。

・一時帰宅から戻ると、表情が曇ってしまう事から、家族との話し合いを持ち

 自宅での様子を聞き、自宅にて言葉による行動抑制(人格否定を含む)が

 行われていた事を知り、家族に向けて理解と協力を求めた。

 →家族の心の葛藤は大変なようであったが、職員が家族の話を聞くよう

 努めた事、本人が落ち着いてきた事から、余裕を持って本人に

 接することが出来るようになったと、家族から話があった。

 

結果

言葉による抑制をやめた事で、本人は欲求を満たす事が出来、

以前のような落ち着きの無い態度は見られなくなった。

笑顔が多く見られるようになり、手の掛かる目の離せない利用者さんから

穏やかな大人しい利用者さんへと変わられたように感じる。

 

 

身体拘束ゼロに向け、取り組んだ結果

拘束廃止に向け、職員間で話し合う事で、職員の士気が高まったように思う。

家族との話し合いや接触を多く持つ事で、家族とのコミュニケーションが深まり

信頼関係が築け、より良いケアへの挑戦が出来た。また本人も、家族の協力が

得られた事で、精神面での安定が大きいと感じられた。

これまで「しかたなく」拘束を行ってきたが、拘束廃止に取り組んできた

今になって思えば、これまでどれほど無気力無表情であったか、

人としての尊厳ある生活を支えていたとは言いがたいケアであったと

反省している。ここに上げた事例は、うまくいった事例であり、

まだまだ問題が解決していない事例は沢山あるが、これからも職員・家族の

協力のもと、身体拘束ゼロに向けて、努力していきたいと思う。