余談(5)





寒いなぁ、寒いなぁ、と思いながら、チャリで爆走してグラウンドに来てみれば、モモカンが遅れるという。
そりゃ珍しいこともあるもんだ、と思ってたら、どうやら路面が凍結して、通行止めになっている場所があるらしい。
原チャなら、エンジン切って押して歩けば大丈夫なんだけど、それにしても渋滞とかしてるんだろーな。
そういえば、来るときに通った橋とかは凍ってたよな。ブレーキとか全然効かなかったし。
坂道でブレーキかけたらスリップして、チャリのくせにドリフトとかしちゃったし。

軽く命の危機に遭遇していたわけだが、全く持って気にしていない阿部だった。



とにかく、朝練をどうするかだ。
そう思いながら、花井と栄口とで顔つき合わせて相談した。
取り敢えず、動いてないと寒くて死ねそうだから、アップだけでも先に始めとくか、ってことになった。







さっそく、準備して整備して朝練を始めることになったんだけど、なんか……

「グラウンドがガリガリいってんだけど」

なんか妙に硬い地面に、首をかしげる。

まず、ダイヤモンドつくってるときに、地面に違和感があった。

次に、グラウンドを、二列になってランニングしてるときに、なんか土の感触が変だなー、と思ってたんだけど、それがなんなのか分からなかった。

最後に、ボールが、やけに跳ねるっていうか、バウンドがきつく、イレギュラーしまくりだった。




(………なんだろ、コレ。三橋が足取られてケガしなきゃいいけど…)


向こうで、予想外に跳ねた球を顔面に喰らってる水谷は、さらりと無視して。
そのまま、三橋がケガしないか注意しながらキャッチボールを続けていたら、校舎の方から用務員さんが走ってきた。













「グラウンド凍結してるから、使用禁止だよー!!」








それか、ガリガリいってんのは。


…にしても、グラウンドって凍るんだな。

シニアではこんな時間の朝練とかがなくて、グラウンド凍結は初体験の阿部だった。
















そのころモモカンは、学校から5分ほどのところにある坂道を、エンジンを切った原チャを押してゆっくり下っていた。
この坂道は、線路だか道路だかを跨いだ陸橋で、下りきったところで十字路になり、西浦へはそこを左折することになっている。


「あら、タイヤの痕がついてる」


その、左折する十字路に、細くタイヤの痕がついていた。

モモカンは、

(凍った道でスピード出してて、横滑りしたのね。エンジン切って押していけばいいのに)

……なんて思っていたが、実はそれが自転車でついたタイヤの痕で、30分ほど前に阿部が華麗にドリフトして行ったときのモノだとは、ついぞ気がつかなかったらしい。


野球と三橋のためなら、自転車でドリフトまでしてしまう。

阿部隆也は、そんなキャッチャーだった。
















.....................

田島様は、凍ったグラウンドでイレギュラーする球を楽しんでいればいいと思います。
三橋は、凍った路面で滑って、阿部くんの寿命を縮めてればいいと思います。