余談(34)
「フリでもいいから、もっとすまなさそうな顔してください!」
何を言うかと思えば、そんなことかよ。
そんな顔つきで、元希は頭一つ分高さの違う顔から視線を外した。
今は試合中で、5回の裏で、専攻の戸田北は守備についている。
その日3つ目の死球を出したところで、「すいません、タイムお願いします」と主審に声をかけた隆也は、外した面とミットを小脇に挟んで、もの凄いしかめっ面でマウンドに歩み寄った。
そして、冒頭の台詞に至る。
「すまなさそうな顔したって、あたった事に変わりはねーだろ」
元希は、この一つ年下の口うるさいのはどうにかならないのか、と思いながら答えた。今日はコントロールがいつもより定まらない。だから、イライラしている。
「変わりはなくてもです。アンタがそんなだから、相手チームがピリピリしてて怖いですよ」
「あ?」
「だから、死球続きなのにアンタの態度が悪いから、バッターがイライラしてるんですよ。次あてたら乱闘かもしれませんよ」
乱闘と言われて、そんなバカな、と笑ってやろうと思ったが、元希は隆也ごしに見えるネクストバッターの、死球に対する恐怖と憤りの表情を見つけて、笑うのをやめた。
元希の球は速くて重い。今までに出した3人の死球は、そのうち2人が当たり所が悪くて代走だった。
……たしかに、次あてたら、つかみかかってきそうな雰囲気だ。
元希は、視線を降ろして隆也の顔を見た。起こってるけど、その中に心配の色も混じっている。
「絶対、あてないでくださいね!」
念を押すように言われて、白球をグラブの中に落とされた。
隆也は、どんなに腹を立てていても投手が大事、という捕手の習性が染み付いたような捕手だった。もし乱闘になったりしたら、真っ先に止めに入るだろう。
この、三年に混じってレギュラーで出てる捕手は、やっぱりまだまだ小柄で、なんだか簡単に怪我してしまいそうでちょっと危うい。
実際にはもの凄く打たれ強いのだけれども。
「へーへー。分かったよ」
元希がそう返事をすると、素直な元希なんて気味が悪いと言わんばかりに変な顔した隆也が、それでもお願いしますと言ってホームへ戻っていった。
(乱闘であのチビが吹っ飛ばされるのもカワイソーだし、ちょっと気を付けて投げるかな)
隆也は目一杯外に構えているけれど、元希は今度こそちゃんとそこに投げれるような気がして、グラブの中で握りしめたボールをくるりと一度回した。
何を言うかと思えば、そんなことかよ。
そんな顔つきで、元希は頭一つ分高さの違う顔から視線を外した。
今は試合中で、5回の裏で、専攻の戸田北は守備についている。
その日3つ目の死球を出したところで、「すいません、タイムお願いします」と主審に声をかけた隆也は、外した面とミットを小脇に挟んで、もの凄いしかめっ面でマウンドに歩み寄った。
そして、冒頭の台詞に至る。
「すまなさそうな顔したって、あたった事に変わりはねーだろ」
元希は、この一つ年下の口うるさいのはどうにかならないのか、と思いながら答えた。今日はコントロールがいつもより定まらない。だから、イライラしている。
「変わりはなくてもです。アンタがそんなだから、相手チームがピリピリしてて怖いですよ」
「あ?」
「だから、死球続きなのにアンタの態度が悪いから、バッターがイライラしてるんですよ。次あてたら乱闘かもしれませんよ」
乱闘と言われて、そんなバカな、と笑ってやろうと思ったが、元希は隆也ごしに見えるネクストバッターの、死球に対する恐怖と憤りの表情を見つけて、笑うのをやめた。
元希の球は速くて重い。今までに出した3人の死球は、そのうち2人が当たり所が悪くて代走だった。
……たしかに、次あてたら、つかみかかってきそうな雰囲気だ。
元希は、視線を降ろして隆也の顔を見た。起こってるけど、その中に心配の色も混じっている。
「絶対、あてないでくださいね!」
念を押すように言われて、白球をグラブの中に落とされた。
隆也は、どんなに腹を立てていても投手が大事、という捕手の習性が染み付いたような捕手だった。もし乱闘になったりしたら、真っ先に止めに入るだろう。
この、三年に混じってレギュラーで出てる捕手は、やっぱりまだまだ小柄で、なんだか簡単に怪我してしまいそうでちょっと危うい。
実際にはもの凄く打たれ強いのだけれども。
「へーへー。分かったよ」
元希がそう返事をすると、素直な元希なんて気味が悪いと言わんばかりに変な顔した隆也が、それでもお願いしますと言ってホームへ戻っていった。
(乱闘であのチビが吹っ飛ばされるのもカワイソーだし、ちょっと気を付けて投げるかな)
隆也は目一杯外に構えているけれど、元希は今度こそちゃんとそこに投げれるような気がして、グラブの中で握りしめたボールをくるりと一度回した。