余談(31)
「ショートお願いします!」
張りつめたグラウンドに声が響いた。
こくり、巣山は声を受けて頷く。
ピッチャー、三橋が振りかぶって、速い球を投げた。
三橋の全力は、それでも他の投手と比べるとそこそこのコントロールがある。
それが、ミットに吸い込まれるようにして捕球された。 パァーンッ! と音がしたかと思うと、もう捕手は振りかぶっている。
二塁への送球。盗塁を刺す、低い球。
阿部は捕手としては体格が足りない分、こういう動作がひどく速い。
肩自体は、一年にしてはいい方かな、というぐらいだが、動作の速さのせいか、三橋の球速でもまあ盗塁は刺せるのだ。
三橋の9分割には遠く及ばないにしても、滅多に悪送球はしないし。
パンッ! 音がして、低めの球がグラブに収まった。と同時に、そのままの動きでベースの手前をはたく。
ショートの巣山は、試合前に盗塁とそれを刺す練習を重点的にやったので、阿部の送球にも慣れたものだった。
「ナイピ、ナイキャ、ナイショート!」
チームメイトが声を掛けてくれて、そしてその球を三橋に返したら試合は開始だった。
「あれ、いいよな」
教室で、この前の練習試合の話をしているときに、ふと思い出したように巣山が言った。
アレって?と訊ねるように、栄口は首を傾げる。
「イニング前の、最後の投球で阿部が二塁に投げてくるヤツ」
「ああ、アレね」
「阿部っていつも『ショートお願いします』っていうだろ」
「うん、言うね」
「アレ聞くと、よし、本番!って思える」
それを聞いて栄口が、斜め上を見るようにして何か考えた後に言った。
「それって、条件付けみたいだね」
「ああ、確かに。サードランナー見るみたいに、落ち着くっているか切り替わるって言うか」
「分かる分かる、オレは阿部の『しまっていこう!』だもん」
「捕手の声って偉大だよな……」
ちょうどその時、後ろのドアから阿部が顔を出したので、2人は顔を見合わせて笑ってしまった。
冬にはのど飴でもあげようかな、なんて思いながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
意外な取り合わせ第二弾。
第一弾は余談(1)の西広くんと阿部くんです。
って、この話、阿部くん出てねぇよ。でも、心意気は巣山+阿部で。
張りつめたグラウンドに声が響いた。
こくり、巣山は声を受けて頷く。
ピッチャー、三橋が振りかぶって、速い球を投げた。
三橋の全力は、それでも他の投手と比べるとそこそこのコントロールがある。
それが、ミットに吸い込まれるようにして捕球された。 パァーンッ! と音がしたかと思うと、もう捕手は振りかぶっている。
二塁への送球。盗塁を刺す、低い球。
阿部は捕手としては体格が足りない分、こういう動作がひどく速い。
肩自体は、一年にしてはいい方かな、というぐらいだが、動作の速さのせいか、三橋の球速でもまあ盗塁は刺せるのだ。
三橋の9分割には遠く及ばないにしても、滅多に悪送球はしないし。
パンッ! 音がして、低めの球がグラブに収まった。と同時に、そのままの動きでベースの手前をはたく。
ショートの巣山は、試合前に盗塁とそれを刺す練習を重点的にやったので、阿部の送球にも慣れたものだった。
「ナイピ、ナイキャ、ナイショート!」
チームメイトが声を掛けてくれて、そしてその球を三橋に返したら試合は開始だった。
「あれ、いいよな」
教室で、この前の練習試合の話をしているときに、ふと思い出したように巣山が言った。
アレって?と訊ねるように、栄口は首を傾げる。
「イニング前の、最後の投球で阿部が二塁に投げてくるヤツ」
「ああ、アレね」
「阿部っていつも『ショートお願いします』っていうだろ」
「うん、言うね」
「アレ聞くと、よし、本番!って思える」
それを聞いて栄口が、斜め上を見るようにして何か考えた後に言った。
「それって、条件付けみたいだね」
「ああ、確かに。サードランナー見るみたいに、落ち着くっているか切り替わるって言うか」
「分かる分かる、オレは阿部の『しまっていこう!』だもん」
「捕手の声って偉大だよな……」
ちょうどその時、後ろのドアから阿部が顔を出したので、2人は顔を見合わせて笑ってしまった。
冬にはのど飴でもあげようかな、なんて思いながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
意外な取り合わせ第二弾。
第一弾は余談(1)の西広くんと阿部くんです。
って、この話、阿部くん出てねぇよ。でも、心意気は巣山+阿部で。